景観論争

 身近なところで「高層ビル反対」などの看板を見たことがあるでしょう。
これは、街づくりの進め方をめぐる対立です。
伝統的な景観や周囲との調和を大切にすべきなのか、
個人の権利や暮らしの便利さを尊重すべきなのか――。
近年、こうした「景観論争」が各地で起こっています。
果たして正解はあるのでしょうか。



街並み保存か利便性か

平等院鳳凰堂の背後に高層マンションが見える
モアイが立ち並ぶイースター島
平等院鳳凰堂の背後に高層マンションが見える(京都府宇治市で)

平等院鳳凰堂の背後に高層マンションが見える

私たちの住む街は、時代とともにその姿を変化させていますが、近年、新しい建物が伝統的な街並みを壊してしまうと感じる人が増え、「景観」に対する関心が高まっています。多くの歴史的遺産を残す京都府宇治市で、この問題を追ってみました。
(文・高橋敦人、写真・大久保忠司)

 10円硬貨の表のデザインにもなっている京都府宇治市の平等院鳳凰(ほうおう)堂。平安時代中期の1053年に建てられたままの姿を今に残す貴重な建物だ。国宝であり、1994年には近くにある宇治上(うじがみ)神社などとともに世界文化遺産に登録された。鳳凰堂は、周囲を囲む池越しに眺めた美しさがよく知られるが、今、正面から見ると、建物の右側の背景に15階建てマンションが2棟あり、趣をそがれる。
 平等院の表参道で土産物店を開いている男性(65)は、「『せっかく来たのに、景色が美しくない』とがっかりするお客さんが多い。観光で生活している私たちにとっても困った話だ」と顔をしかめる。
 このマンションは、世界文化遺産登録の2年後に、平等院から400メートルしか離れていない場所に建てられ始めた。40メートルを超える高い建物で、市民からは「宇治の美観を損ねる」との声が上がったが、建物の高さに制限がない「商業地域」だったため、法律などで制限することはできなかった。
 美しい街並みや景色を守ろうという「景観保存」の意識が人々の間に生まれたのは、日本が高度経済成長期の60年代だった、と東京大学大学院の西村幸夫教授(都市計画)は指摘する。「東京オリンピックに向け、東京では木造の落ち着いた色の家々が取り壊されてコンクリート製のビルが次々に建ち、色も形も高さもごちゃ混ぜの街ができあがった。
京都の景観に合わないと言われた京都タワーができたのも、このころ」と言う。市街地が虫食い的に広がる「スプロール現象」が起き、山肌を削った宅地開発なども進み、開発か景観保護かという「美観論争」が起こった。
 しかし、平等院の例のように、景観を守るために建物の高さなどを制限するのは、容易なことではなかった。人それぞれの好み(主観)によって善しあしが分かれる景観をタテに、建物の高さを制限するのは、憲法が保障する「財産権」を侵すことになる、という議論もあったという。
 転機となったのは、2004年に制定された「景観法」。第2条で「良好な景観は国民共通の資産」という考え方を初めて示し、景観を理由にした建物規制を可能にした。
 宇治市では、05年に平等院周辺の住民を対象に行ったアンケート調査で、89%が「高さ制限の見直しを行うべき」(「内容によっては」を含む)と回答したのを踏まえ、06年1月に高さ制限を見直し、新たに建物を建てる場合、高さ20メートルを超えてはならないようにした。「景観行政団体」にもなり、今年度中には、建物の形や色が周囲となじまない場合、変更を命じることのできる制度を作る予定だ。宇治市都市整備部の小川茂参事(57)は「マンション問題を通じて、世界遺産にふさわしい景観を後世に残そうという意識が市民に芽生えた」と話す。
景観を巡る自治体の主な取り組み

景観行政団体
 景観法に基づき、良好な街並みを保つため建物の高さやデザイン、外観などについて独自の計画(景観計画)を作ることができる地方自治体。計画に沿わない建物には変更命令を出すことができ、従わない者には罰則を科すこともできる。都道府県と政令指定都市、中核市は自動的に景観行政団体になっており、その他の市区町村は都道府県が同意すればなれる。

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