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<指令16>古き良き北京を探せ

 「最後の指令は“温故知新”だな」と、荒井キャップがつぶやいた。「孔子様のありがたい教えで、昔のことを調べれば新しい知識を得られるというのだ。そこで、古き良き北京とはどんなものなのか、現在のライフスタイルへどう変化したのか、調査してもらいたいのだ」。

 それにしてもキャップ、今回はすごくまじめな指令ですね。「北京に来たからには、こういう調査もしないと、誤解されるじゃないか」。しかし、「古き良き北京」といっても、もう昔のことで、調べようがないのでは……。(メディア戦略局編集部・林宗治)

広く、快適な郊外の住宅

郊外の胡同。レンガつくりの外観

 北京の古い街並み、胡同(フートン)には、昔のライフスタイルがまだ残っているかも知れない。マンションやビルが林立する中に残され観光地化した胡同より、郊外の方が調査にはいいだろう。そこで、市中心部から車で1時間ほど、環状道路の六環路と五環路の間にある温泉村という地域にキャップを案内した。

 家の規模が大きい。その中の1軒、看護師として働く女性(35)宅を訪ねた。調理師の夫(40)と長男(9)、実母(60)と暮らす実家は、リフォームしたばかり。「広さは200平方メートルくらい。このあたりではもっと広い家もありますよ」と事もなげだ。

隣近所とのきずなが大事

中はリフォームしてピカピカ

 子供の小学校も夫婦それぞれの職場も四環路の内側にあるため、約1時間かけてバスや車で通う。それでも「マンションなどに移りたいとは思わない」と言う。

 「マンションやアパートでは人情味が薄く、さびしい。もしアパートに移るのなら、近所の人とみんな一緒に移りたいわ」。隣近所とのきずなは強い。不審者が来たらすぐわかり、防犯上も安心だ。

エコ生活を実践

屋根に取り付けられた太陽熱温水器

 環境がいいのも気に入っている。「職場のある市中心部はここ4、5年ほど、大気汚染がひどかった。ここでは、晴れた時には山もすぐそこに見えます」。

 この家でトイレを水洗式にしたのは1年前。それまでは、たまった排泄物は肥料として利用していた。し尿で育ったヒマワリの種はとても甘くなるという。水洗になっても、洗面所の排水を再利用している。屋根には太陽熱温水器が備え付けられ、シャワーのお湯に使っている。郊外の一軒家はエコ生活を実践しているようだ。(動画をご覧ください)

家の中にはハイテク家電も

広い居間に大型の液晶テレビモニター

 一方で、家の中にはハイテク家電もあふれている。リビングルームには、50インチはあるフィリップス社製の大型液晶テレビが置かれていた。持っている携帯電話はサムソン社製の高機能モデルで、4000元(約6万4000円)もした。小学3年生の長男はパソコンを操り、学校の宿題で作った「作品」を見せてくれた。年代を感じさせるレンガ造りの外観からは想像できない。北京の今と昔が混然と同居していた。(動画をご覧ください)

自由市場で野菜を吟味

自由市場では安く新鮮な野菜が手に入る。売り手と客の掛け合いもコミュニケーション

 では、都会のアパート生活には「古き良き北京」はもう残っていないのか? <指令1>でお世話になった張さんのお父さんの話を思い出した。

 お父さんの重要な日課は、自宅近くの自由市場での食材の買い出しだ。肉こそ近くのスーパーで買うようになったが、野菜や果物は「自由市場」で仕入れるという。そこで、再訪して、買い物の様子を見せてもらった。(動画をご覧ください)

 自由市場とは、近郊の農家が持ち寄った農作物を売る「朝市」のようなもの。市内の各地で見られる光景だ。「もう少し安くしてくれないか」。野菜を吟味しながら、顔見知りの農家にわずかな額でも値引きを掛け合う。お父さんは実に楽しそうだ。信頼できる相手から買えば、農薬の心配もない。毎朝の買い物で野菜の良しあしを見分ける目も肥えている。

公園が社交場

公園は市民の社交場。自然に顔見知りになり、友達ができる

 公園の朝も、またにぎやかだ。太極拳、踊り、歌などさまざまな活動にいそしむ姿が見られる。アパートや高層マンションに住むようになった人たちが、人とのつながりを求めて集まるのだ。

 市中心部の北海公園には、大きな筆で地面に文字を書くパフォーマンスをしている人たちがいた。墨でなく水をスポンジの筆につけ、乾いた石の路面に左右同時に同じ文字を器用に書いていく。2年ほど前から土日などに通っているという盧さん(69)は、「字を書いている間は集中できて、とても気持ちいいですよ。タクシーを使ってここに来るんです。自然に顔見知りができて、友達が増えました」と話す。このほか、家の近くの公園では、ダンスや歌もやっている。

 胡同からアパート、マンションに移って失われた地域のコミュニケーションが、自由市場や公園にはまだ残っているようだ。だが、若い世代に受け継がれていくのかどうかは定かではない。

「変わる北京」を実感

 五輪開催という大きな目標に向けてひた走ってきた北京は、ここ10数年で激変したという。携帯電話は1人1台が当たり前。訪れた家の居間には、たとえ狭くても、大型液晶テレビやステレオセット、パソコン一式などが鎮座していた。若者のファッションも日本とほとんど変わらない。マイカーを持つ家庭も増え、自転車が街にあふれていたころとは隔世の感がある。

 「古き良き北京。言葉の響きは美しいが、それをそのまま残せなどと、われわれのような部外者が言うのはおこがましいかも知れないな」と、キャップが納得したようにつぶやいた。

2008年8月23日  読売新聞)
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