(上)早熟の天才と雑草…スピードスケート
「天才」と「雑草」が闘志を燃やす――。スピードスケートの名門「日本電産サンキョー」で、互いに存在を認め合う加藤条治(24)と長島圭一郎(27)。両雄の目的はただ一つ。バンクーバー五輪男子500メートルでの金メダルだ。前回トリノ五輪では7大会ぶりにメダルを逃した「ニッポン」の伝統復活には、加藤と長島のエース対決が不可欠でもある。(畔川吉永)
磨き上げた鋼の心…加藤条治(24)

山形・山形中央高3年、17歳で国際デビューした加藤条治は、「カーブの魔術師」「天才スケーター」の名をほしいままにし、世界トップへの階段を駆け上がった。トリノ五輪シーズンの2005年11月には、20歳の若さで、清水宏保の持つ500メートルの世界記録(当時)を100分の2秒、塗り替えた。世界に君臨した清水の記録を4年半ぶりに更新した快挙に自身「時代を動かした」と豪語、自信を深めた。鼻っ柱の強さでも周囲を圧倒したのが「早熟の天才」でもあった。
ところが肝心のトリノ本番では6位。エースの自負心は砕け散り、五輪特有の空気にもてあそばれた自分を「金メダル候補と持ち上げられ、自意識が過剰になった……。そんな自分を抑えるのが大変でした」と振り返る。己のもろさに気づかされた舞台だった。
屈辱と悔しさを胸に秘めながら、究極の速さと重圧をはね返す〈鋼の精神力〉を追い求めたのが、この4年だ。そんな加藤は「一発当たれば大きな結果が出るのが僕」と自らの武器を認めつつ、「狙って勝つのが難しいのも五輪」と謙虚に受け止める。今季、W杯8レースで優勝者は6人と、混戦種目。心の強さこそが天才の技を引き出す。加藤の真価が問われる舞台だ。
メダルが存在証明…長島圭一郎(27)

加藤より2学年上の長島圭一郎は対照的な競技人生を送ってきた。北海道・池田高3年で長距離から短距離に転向し、トリノ五輪代表には選ばれたが、注目されない存在だった。日大を経て、社会人2年目の24歳で初めてW杯を制した。昨季の世界スプリント選手権では清水宏保以来、日本男子8年ぶりとなる総合銀メダルを獲得。末席から主役にのし上がり、自ら「はいあがってきた雑草」と遅咲きの競技人生を評した。
メダルは存在証明でもある。「取らないと意味がない」と公言する男は、27歳で迎えるバンクーバーを最大で最後のチャンスと位置づける。チームの今村俊明監督が「世界屈指」と認めるブレの少ないスケーティングフォームと、安定してレースをまとめる冷静な試合運びは、競技社会の底辺を味わってきた男だからこそ身についた。2回滑走の合計タイムで争う500メートルの五輪方式では、大きな武器にもなるだろう。
ピークは2月に合わせてきた。W杯前半戦は思い通りに動かない自分の体にジレンマを感じつつ、「若い時と違って不安を無理になくそうとはしない。不安を抱えたまま滑る余裕が出来たかな」。雑草スケーターは、「たくましさ」という深みも身につけた。
◇
バンクーバー冬季五輪年が明けた。2月12日(日本時間13日)の開幕まで、いよいよカウントダウン。メダル獲得に期待が高まるスピードスケート、スキージャンプ、フィギュアスケートの「日本男児」に焦点を当て、対極のエースを追った。
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