5度目の挑戦、何かひきつけるものがある五輪…馬場馬術・法華津寛
日本選手として史上最年長でロンドン五輪に出場する馬場馬術の
記者会見での一問一答は以下の通り。
目標は胸に秘めて戦う
−−五輪を決めた特の感想は?
「五輪代表を決めた時はうれしいんですけども、ホッとしたというか、『あー、やっとここまできたな』という感じでした」
−−ご自身の最年長出場記録を塗り替えましたが
「こうやってたくさんのマスコミに集まっていただけるというのは71歳という年齢のせいですから、そういう意味では年をとっていてよかったなって思います」
−−五輪への思い、魅力は?
「何でしょうねえ? 五輪よりレベルや規模の高い競技はあるんですが、五輪にはやっぱり何か、ひきつけるものがあるんですね。五輪に何回挑戦したのかなあ? 東京、ロス、ソウル、それから北京、ロンドンと5回ですね。それでも具体的に何だかわかりません」
−−北京以降、自身の体調は?
「変化は特にありません。大学卒業してからほとんど変わっていない。競技を5週間こなした時は外食が多く、2キロ減りました。今は体重を元に戻すようにしています。それと最近、物忘れがありますね。そして視力。新聞が読みにくくなってきました。でも免許の更新では裸眼で通ったから0・7以上あったんでしょ、両方とも」
−−ロンドン五輪では開会式には? 目標は?
「開会式はあんまり出たいとは思わないです」「馬っていうのは、ヨーロッパが本場です。ドイツ、オランダが非常に強く、イギリス、アメリカにも非常にいい選手と馬がいるので、あまり大きなことが言えない。できれば、ケンタッキーの世界選手権よりはいい成績を収めたいです。それ以上は、口に出しては言いません。言うと逃げていきそうだから(笑)」
ウイスパーが一番いい馬
−−愛馬ウイスパーについて?
「15歳、人間で言うと50〜60歳くらい。大会に早くから出る能力の高い馬でも、10歳くらいが早いほう。13、14、15歳くらいが円熟期ですからウイスパーもいい年齢です」
−−年を重ねて変化は?
「ウイスパーは年を重ねてきて、性格的におだやかになってきました。演技が楽にできるようになってきましたね。ある時、ふっとね、『あー、こいつも少しは年とって、精神的に成長したんだな』って思うことがあります」
−−どんな存在? 性格は?
「ウイスパーは、よきパートナーですね。たまに、どっちが身分が上なのかよくわかんないんですけどね。(性格は)非常に繊細で、ものに驚きやすい性格です。音、光線の加減とか、何かそういうことで驚いて失敗することがある。だから乗っている方は気を使います」
−−本番にはどう臨む?
「競技をする場所に許される限り早く行って、環境に慣れさせてあげます。競技の日の朝、早くに1回出して乗って、その日のコンディションや感情的にどういう状態かを確かめます。そしてアップの内容を考えます」
−−好きな食べ物は? 調教は大変?
「りんご、にんじん。でもバナナが一番好きみたいです。調教するのももちろん大変ですけれども、コンディションを維持していくのが一番難しいですね。特にウイスパーのように、ある程度年齢のいった馬と付き合っている場合は。今は目の調子があまりよくない」
−−調子は? 故障については?
「ウイスパーの場合、昨年の2月末に故障しました。そのあとは軽い運動しかできなくて11月末まで9か月くらい、人間で言ったら寝たり起きたりっていうような日々を送りました。運動を再開して、うまいこと戦ってくれた。その後、いまは筋肉を楽にさせている。コンディションを整えていくのはこれから、徐々にですね。
(故障したのは)右後ろ脚の関節です、人間で言うと膝より上になるのかな、付け根より下ですね。ある日、乗っているときに、動きのバランスが悪くなってきた。半年くらい治療しても良くならず、11月に手術をすると決めた時は五輪を100%諦めました。今はもうほぼ完治しているといっていいでしょう」
−−ロンドンまでの予定は?
「3〜4試合に出ます。7月の独アーヘンに出てロンドンというつもりです。アーヘンは、規模からいってもレベルからいっても五輪より上の大会です」
−−普段の調教は?
「調教は、午前中に約1時間行います。午後に、引いて歩いたり、乗って農道みたいなところを散歩に行くこともあります」
−−競技には馬と人間どっちの力が大きい?
「馬6分、人4分とか、馬7分、人3分とか言われますけど、やっぱりね、いい馬じゃないといい成績は取れません。どんなにうまい人でも。自分が今まで出会ってきた馬は数えられないけど、ウイスパーが一番いい馬です」
−−ウイスパーとはいつまで競技を?
「ウイスパーとオリンピックに出るのはこれが最後になるでしょう。4年後は、19歳になるから年齢的に無理です。また五輪に連れて行ってくれるような馬に出会うのはなかなか難しいけど、『もし』が三つくらい重なれば、次の五輪に出たいと思うかもね」
今でも少しずつうまくなっている
−−馬場馬術において大切なことは?
「最も大切なことは、忍耐強く馬と接すること。甘やかすでもなく、理由なく怒るでもなく……。まだ口のきけない子供と接するような思いやりの気持ちで接するのが一番いいと思います」
−−馬術の面白さは?
「馬という動物に乗って、一緒になって何かをやっていくというのが面白さ。意思のあるものと一緒にやるのが一番楽しいところです」
−−普段のトレーニングは?
「毎朝20分程度のストレッチ、午前中、1時間くらい馬に乗り、夕方約30分、筋トレとストレッチを組み合わせたトレーニング。腹筋や背筋は、この年でやりすぎると体に悪いので、あまりやりません」
−−食生活は?
「食生活は全く気にしてません。ただ、あまり胃腸が丈夫ではないので、おなかを壊さないよう自分で作って食べる。なんでも作れますよ! 今のマイブームは、シタビラメのムニエル。ワインと一緒にね。生の魚やおすしが食べたくなって、日本が恋しくなることもあります」
−−ご家族との交流は?
「妻と娘は、非常に協力的です。連絡は、電話だったりメールだったり。ドイツに来ることもよくあります」
−−震災については?
「震災のあと、外国の新聞社からコメントを求められました。そこで話したのは、『何年かかるかわからないけど、日本という国は必ず立ち直る。それが日本という国です』ということです」
−−みんなに勇気を?
「競技をやること自体は自分のためです。だけど71歳という年齢で国際的に活躍することが、みなさん、特にじいさんたちの励ましになるのであれば、こんなにうれしいことはないと思います」
−−この年齢でも競技を続けるモチベーションは?
「僕にとって競技を続ける一番のモチベーションは、今でも少しずつ、自分がうまくなっているな、って感じられることです。言葉で言うのは難しいが、いろんな技が上達しています。『うまくならないな、下手になったな、と思ったらすぐやめる。また、なんらかの肉体的な問題が出てくるかもしれないしね』。でも、それまではやめません」
(メディア戦略局ロンドン五輪取材班 高野一)
| 馬場馬術競技について |
|---|
| 横20メートル、縦60メートルの馬場で決められた演技をいかに正確に美しく、躍動的に行えるかを競う。5人の審査員が10点満点で採点、その合計で成績を競う。 ピアッフェ(ひとつの場所で跳ねるような運動)、パッサージュ(脚を上げる時間を速歩からだんだん遅くする運動)など、馬に高い運動能力がないとうまくできないものがある。 ロンドン五輪は、50人馬が出場。規定される演技の構成により「グランプリ」「オリンピックグランプリスペシャル」「自由演技グランプリ」がある。団体第1次予選兼個人第1次予選はグランプリで行われる。グランプリの団体上位7か国およびその他個人11人馬が進んで行う団体ファイナル兼個人第2次予選はオリンピックグランプリスペシャルで行われる。上位18人馬が進んで行う個人ファイナルは「自由演技グランプリ」で行われる。 |
| プロフィル |
|---|
| 法華津寛(ほけつ・ひろし) 1941年3月28日生まれ。168センチ、62キロ。慶応義塾大学卒業、Duke大学修士課程修了。現在はドイツを拠点に活動中。東京五輪に障害馬術選手として出場(騎乗馬:ラロ/個人40位)、その後、馬場馬術に転向。ロサンゼルス五輪は補欠、ソウル五輪は代表になるも馬が検疫をパスできなかった。北京五輪は団体9位、個人34位。1988〜92年に全日本馬場馬術選手権競技を同一人馬で5連覇。2010年の世界馬術選手権大会(米ケンタッキー)ではグランプリで24位、日本人初のグランプリスペシャル進出、31位の成績を収めた。ロンドン五輪出場のランキング締め切り(2012年3月1日)までに6大会に出場。1月末から5週連続で参加。競技を重ねるごとに馬が調子を上げ、3月1日の競技で優勝。東南アジア・オセアニアランキングでトップとなり、個人出場枠を獲得。 |
| 騎乗馬 |
|---|
| 馬名:ウイスパー(Whisper 115) 年齢:15歳(1997年4月1日生) 性別:牝馬 毛色:栃栗毛 品種:ハノーバー 産地:ドイツ |
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