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柔・短・速 なでしこパス…サッカー

 なでしこジャパンは昨年、女子ワールドカップ(W杯)で優勝した。ロンドン五輪でも大柄な海外勢に勝つため、高い技術のボールさばきで守備を崩し、短いパスを素早くつないでゴールに迫る。

ふわり逆回転

 W杯準々決勝のドイツ戦。延長後半の通算108分、走り込みながらパスを受けた丸山桂里奈が直接蹴り込み、ゴール左隅に決勝点をきめた。丸山が追いつけるよう、ボールが弾む時に失速する逆回転のパスを出したのが沢穂希だった。

 逆回転すると、球面の上部で空気の流れとボールの回転方向が一致、空気が薄くなる。上への力が働き、ふわっと浮くようにみえる。弾む時も転がりすぎない。相手DFは処理しづらく、味方は受けやすい。「あの柔らかいパスは海外の選手にはまねできない」と堀野博幸・早大准教授は評価する。

先読んで走る

 なでしこはW杯に出場した16チームで平均身長が最低だった。長いパスは浮き球になり、大柄な相手にボールを奪われやすい。そこで短いパスをつなぐ戦術を採用。ボールを受ける前から周囲の状況を把握し、ワンタッチプレーや相手より早いタイミングでの動き出しに活路を求めた。丸山のゴールの場面も、沢がパスを受ける前から、丸山は沢からパスが来ると予測し、ゴールに向けて走り出している。

 五輪で最強のライバルは米国。堀野准教授が4月の日米戦を分析した結果、パスの平均距離はなでしこが17メートルで米国より1・6メートル短く、成功率も米国より約2ポイント高い77・5%だった。

 浅井武・筑波大教授によると、女子は男子と比べて、足の芯(つま先からかかとの6対4の位置)を外れて蹴ったボールの勢いが落ちやすい。足の関節が軟らかく体重も軽いからだ。

 浅井教授は「パスがつながっているのは、しっかりと芯で蹴れている証拠。小学生時代に男子に交じって練習し、基礎固めになったのでは」と話す。

ワンタッチで

 W杯決勝の分析では、沢の全プレーのうちワンタッチでパスを送る「1秒未満のプレー」は35・6%で、米国のMFロイドの22%を上回った。ボールを扱う技術とボールを受ける前の選手の動きがかみ合い、速いパス回しが実現している。

腰ズシリ 体格差カバー

 海外勢との体格差がある「なでしこ」は、体力強化にも取り組む。フィジカルコーチを務める広瀬統一(のりかず)・早大准教授によれば、北京五輪では、接触プレーで倒れる場面が目立ったが、W杯では粘り強さが見られるようになった。

 W杯ドイツ戦では、熊谷紗希が相手をはじき飛ばしてボールを奪い、ピンチをしのぐ場面があった。体をぶつけた瞬間に安定姿勢をとり、競り合いを制した。

 広瀬准教授によると、パワーを表す、腕を腰に当ててのジャンプでなでしこは30・8センチ。米国の大学生の41・9センチより低い。それでも「腰を低くし背筋を伸ばした姿勢を作れれば、大柄な相手とわたりあえる」と指摘する。低い姿勢を作るクセをつけ、腰まわりなど体を支える筋肉の鍛錬が重要だ。

 ドイツでプレーする安藤梢が同国代表チームのトレーニングに参加するなど、選手たちは日常的に身体能力の向上に取り組む。

ダッシュ力向上

 パワーに加え、試合の90分間を通してダッシュを続ける力も鍛えている。試合終盤での走る距離に深く関係するとされる、40メートル走の繰り返しテストでは、制限時間内に走れる距離が2009年の1303メートルから、11年は1607メートルに伸びた。

伸びやすい新ボール

 ロンドン五輪ではボールが変わる。公式球「アルバート」は、表面のパネルは32枚。パネル間の溝の長さは447センチだ。W杯公式球「スピードセル」のパネル8枚、溝198センチより、溝が大幅に長くなった。

 浅井教授が二つの球の飛距離を比べたところ、強いパスにあたる秒速17メートルで蹴ると、五輪球は19・5メートルで、W杯球の17・5メートルを超えた。

 一定以上の速さで進むボールの後方には低圧部ができるが、この低圧部が小さくなるほど飛距離は伸びる。一定速度を超えると、ボール表面を流れる空気は溝にぶつかり表面にまとわりつく。溝が長いほど空気はまとわりつきやすく、ボール後方の低圧部が小さくなる。

 五輪球について「(ボールが)伸びやすい」(安藤梢)、「悪い意味で軽くなった感じ」(宮間あや)など選手の反応は様々だが、浅井教授は「パスが伸びてつなぎやすくなり、なでしこに有利なのでは」とみる。

 世界トップの「速さ」や「強さ」を競い合うロンドン五輪。陸上、水泳、球技など様々な競技で、自らの身体能力を最大限に発揮して栄冠に挑む超人たちの技や力に、科学の視点から迫る。

2012年7月24日  読売新聞)

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