文字サイズ
    観戦ミニガイド

    マラソン…最初から42.195キロではなかった

    英女王の一声で決まった距離

    • オリンピック種目の中でも注目度が高いマラソン。日本勢が世界にどう挑むかが見どころだ(2012年ロンドン大会で)=代表撮影
      オリンピック種目の中でも注目度が高いマラソン。日本勢が世界にどう挑むかが見どころだ(2012年ロンドン大会で)=代表撮影

     紀元前490年、古代ギリシャ、アテナイ近郊の「マラトン」に、ペルシャの大軍が押し寄せた。アテナイ軍は数の上では劣勢だったが、機動力を生かした戦いを仕掛け、奇跡的な勝利を収める。一人の兵士が勝利の知らせを携え、アテナイまでの道を走りに走った。アテナイに着いた兵士は「我ら勝てり」と言い、そこで息絶えた。

     陸上競技のマラソンはこの「マラトンの戦い」の伝説が起源とされている。競技で走る42.195キロは、マラトンからアテナイまでの距離だと思っている人もいるかもしれない。ところが、これは違う。

     1896年にアテネで開催された第1回オリンピックのマラソンはアテネ―マラトン間を走ったが、距離は約40キロ。その後も、走る距離は大会ごとに違っていた。

     初めて42.195キロのコースを走ったのは、1908年ロンドン大会である。この時は英国のアレクサンドラ王妃が「スタートは宮殿の庭、ゴールは競技場のボックス席の前で」と言ったから、そうなったと伝えられている。女王の一声で距離が少し延びることになったのだ。

     ロンドン大会ではイタリアのドランド・ピエトリがゴール直前で何度か倒れ、そのたびに係員に抱え上げてもらいながらゴールした。彼は1着だったが失格と判定され、記録も順位も取り消されてしまった。これが「ドランドの悲劇」である。

     24年のパリ大会で距離を決める際、この「ドランドの悲劇」があったロンドン大会の距離に合わせることになった。パリ大会以降は42.195キロで統一されている。

    男子マラソン、戦前の金メダル

    • 韓国・ソウルに立つ孫基禎さんの像。孫さんは1936年のベルリン五輪マラソンで金メダルを獲得した
      韓国・ソウルに立つ孫基禎さんの像。孫さんは1936年のベルリン五輪マラソンで金メダルを獲得した

     日本は戦前、男子マラソンで金メダルを1個獲得している。しかし、この偉業は歴史を抜きには語れない。

     36年ベルリン大会、「日本代表」として出場した孫基禎(1912~2002年)は当時、日本の統治下にあった朝鮮半島の出身だった。

     「自分自身と祖国コリアのために走った」という孫は当時の五輪記録を更新する2時間29分19秒のタイムで優勝した。だが、君が代が流れ、日章旗がはためく表彰式で、その喜びは吹き飛んだ。孫は後に自伝にこう書いている。

     「日本人のために走ったとは思わない。私自身のため、そして圧政にしん吟する同胞のために走った、というのが本心だ」

     孫は戦後、韓国で陸上界の発展に尽くし、多くの後進を育てた。その一方で、日本の陸上関係者との交流も続けた。「戦争は勝っても、負けても人が死ぬ。スポーツは終われば握手で別れられる」が口癖だったという。

    リオ五輪、世界にどこまで迫れるか

    • リオ五輪の男女マラソン代表に決まった(左から)石川末広、北島寿典、佐々木悟、伊藤舞、福士加代子、田中智美(東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで)=2016年3月18日撮影
      リオ五輪の男女マラソン代表に決まった(左から)石川末広、北島寿典、佐々木悟、伊藤舞、福士加代子、田中智美(東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで)=2016年3月18日撮影

     男子は92年バルセロナ(スペイン)大会で森下広一が銀、女子は2004年アテネ大会で野口みずきが金を獲得して以来、日本勢はメダルから遠ざかっている。

     マラソンの日本記録は、男子が02年シカゴマラソンで高岡寿成が記録した2時間6分16秒、女子が05年ベルリンマラソンで野口が記録した2時間19分12秒だ。男女とも10年以上、記録は塗り替えられていない。

     1キロ3分のスピードでフルマラソンを走れば、2時間6分35秒。日本人選手のうち1キロ3分以内で走ったのは高岡ただ一人。男子の世界記録は14年ベルリンマラソンでデニス・キメット(ケニア)が記録した2時間2分57秒だ。日本は世界の高速化の流れから取り残されている。

     リオ五輪では日本勢が苦しい流れに終止符を打てるかどうかに注目したい。

    • 今年1月の大阪国際女子で1位となった福士加代子。リオでは日本のエースとして活躍が期待される
      今年1月の大阪国際女子で1位となった福士加代子。リオでは日本のエースとして活躍が期待される

     中でも女子は充実したメンバーがそろった。エースの福士加代子(ワコール)は今年1月の大阪国際女子を2時間22分17秒の自己ベストで走って優勝した。13年世界選手権で銅メダルを獲得した実績もある。

     田中智美(第一生命)は今年3月の名古屋ウィメンズで後半に粘りを見せて日本人最高の2位に入った。伊藤舞(大塚製薬)は15年世界選手権で日本人最高の7位という成績を残している。

     男子は佐々木悟(旭化成)、北島寿典(安川電機)、石川末広(ホンダ)の3人。いずれも30代のベテランだ。佐々木は14年びわ湖毎日2位、北島は15年延岡西日本、同年シドニーの両マラソンで優勝、石川は13年びわ湖毎日で6位、同年ベルリンで7位だった。

     過去のオリンピックにおける男子の優勝タイムを見てみると、12年ロンドン大会は2時間8分1秒、08年北京大会は2時間6分32秒、その前のアテネ大会は2時間10分55秒だ。いずれも暑い季節の戦いで、記録を出すにはベストの条件ではなかった。今回、リオは冬だが、暑い日は気温が30度を超えることもあるという。日本勢の粘りに期待したい。

    <関連記事>

    有森、谷口、Qちゃん…名セリフに彩られたマラソン

    マラソンの給水、何を飲むの?―増田明美さんに聞く

    【世界うまいもの五輪】〈5〉長距離王国支える焼き肉「ニャマチョマ」(ケニア)

    <関連リンク>

    公益財団法人 日本陸上競技連盟

    2016年08月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR情報
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP