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    第9回シンポ~社会と科学者(上) 

     京都大の22の附置研究所・センターによる第9回シンポジウム・仙台講演会「京都からの提言~21世紀の日本を考える」(読売新聞社など後援)が3月15日、仙台市の仙台国際センターで開かれた。「社会と科学者」をテーマに、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・iPS細胞研究所長ら様々な分野の専門家が、約850人の来場者を前に最先端の研究成果を披露した。(肩書はシンポ開催時)

     

    <講 演>

    河合 俊雄・こころの未来研究センター教授

    山子  茂・化学研究所教授

    森井  孝・エネルギー理工学研究所教授

    平川  新・東北大学災害科学国際研究所長・教授

    山中 伸弥・iPS細胞研究所長・教授

    <質疑応答>

    司会

    岩田 博夫・再生医科学研究所長・教授

    講演者

    河合氏、山子氏、森井氏、平川氏、山中氏

     

    • 河合俊雄・こころの未来研究センター教授
      河合俊雄・こころの未来研究センター教授

     ◇主体性築き心理療法

     河合俊雄・こころの未来研究センター教授

     「発達障害と現代の意識」

     発達障害は、コミュニケーションが一方的だったり、こだわり行動があったりといった特徴がみられ、重症の場合は自閉症として、会話だけでなく、人間関係そのものが不可能になる。

     近年はとても増えていると言われている。2002年の文部科学省の調査では、子どもの6・3%にみられた。大人でも多くなっており、対人関係でのつまずきやトラブルが起きている。

     発達障害は脳機能の障害と考えられている。障害をカバーするために、適応訓練や教育による対応がなされる一方で、心理療法は困難とみなされてきた。なぜなら、発達障害の大きな特徴は、自他が区別できず、自発性に欠けるといった主体性の弱さにあると考えられるからだ。

     心理療法は、主体性があることを前提にしている。こころの自然な回復力をベースに、患者が自分で解決策を探していくのだ。しかし、発達障害の人は主体性が弱いために、こうした対応が難しい。こだわり行動が自分のよりどころになっている場合があるほか、20歳を過ぎても親と一緒に寝たり、風呂に入ったりするなど、親子の分離も進まない。このため、通常の心理療法では問題解決が難しく、親子関係の改善などを通じて、主体性を作り出す試みが必要となる。

     心理療法に関わっていると、対象となる症状は時代によって変化してきていると感じる。1960年代までは周囲の人が怖いという「対人恐怖」が多かったが、その後は、強烈な自己主張に加えて二者関係にこだわる「境界例」、異なる人格が表れるような「解離性障害」が増えた。

     現代において発達障害が多くなっているのは、社会的に分離とか自立が難しくなっている状況があるためではないか。脳機能的には問題がなくても発達障害と言われている人が、実は多いようにも思う。無料通話アプリ「LINE(ライン)」の普及が象徴するように、人と人との境界が失われているような時代性があり、このため、主体性が弱くて、発達障害に似た症状を作り出す人が増えていることも関係しているのだろう。

     

    • 山子茂・化学研究所教授
      山子茂・化学研究所教授

     ◇「重合」で役立つ素材を

     山子茂・化学研究所教授

     「合成化学:未来を創る科学技術」

     有機合成化学とは、木材を組み立てて家を建てるように、炭素と水素、窒素、酸素などからできた非常に小さく安い材料を組み立てることによって、価値のある新しい分子を作り出すという創造的な学問分野だ。

     1999年に英科学誌ネイチャーは20世紀の最も重要な科学の成果として、窒素と水素からアンモニアを合成する「ハーバー・ボッシュ法」という技術を紹介した。この技術で化学肥料が作られていなければ、人類の約半分が飢えてしまっていたと考えられるからだ。開発に貢献したハーバーとボッシュは、ともにノーベル化学賞を受賞している。

     ただ、この技術でアンモニアを合成するには、400~600度、200~1000気圧という高温・高圧にしなければならない。

     ところが、マメ科植物の根に共生する根粒細菌は、酵素を働かせて、常温で窒素をアンモニアに変えてしまう。このような反応を自在に操れるようになれば、画期的な進歩になる。

     実は、細菌も私たちの体も、すべて有機化合物でできている。酵素もその一部で、アミノ酸という小さなパーツがたくさんつながってできている。小さなパーツをつないで酵素のような大きな分子(高分子)を作ることを「重合」という。パーツの組み合わせやつなぎ方を工夫すれば、色々と役に立つ高分子を合成できる。

     例えば、眼鏡のレンズには現在、透明で屈折率の高い高分子でできたプラスチックが広く使われている。その分子構造を少し変えて、軟らかくて水になじみやすい性質にすれば、ソフトコンタクトレンズになる。電気を通す高分子は、太陽電池やディスプレーの光源などに利用されている。このように、役に立つ高分子の構造を設計し、必要なパーツを集めて組み立てることができるようになってきた。

     私は、この組み立て方をうまく制御できる「リビングラジカル重合」という方法を研究している。この方法をうまく使えば、磁気記憶媒体の容量を飛躍的に高めたり、非常に効率の良いリチウム電池を作ったりできるようになるだろう。

     

    • 森井孝・エネルギー理工学研究所教授
      森井孝・エネルギー理工学研究所教授

     ◇光合成を再現したい

     森井孝・エネルギー理工学研究所教授

     「折り紙でつくる化学コンビナート」

     19世紀の産業革命以降、エネルギーの消費量は爆発的に増えた。しかし、その源となる石油や石炭、ウランなどには限りがある。

     太陽からは、世界中で1年間に必要な量を上回る膨大なエネルギーが、わずか1時間で地球上に降り注いでいる。太陽電池は、太陽の光を電気エネルギーに変えることができるが、電気はためておくことが難しい。

     これに対して、植物の光合成はエネルギーを貯蔵できる。太陽光を吸収して化学エネルギーに変換し、水と二酸化炭素から糖や酸素を作っている。ほぼすべての生物は、光合成で得られたエネルギーで生きていると言ってもいい。

     光合成ができる装置を開発すれば、地球温暖化の原因となる二酸化炭素からアルコールなどの燃料を作り、それを貯蔵できるようになる。太陽電池と合わせて使えば、太陽光エネルギーの利用の幅が大きく広がる。

     光合成をしている植物の細胞では、太陽光を吸収した後に、1000を超える化学反応が、網の目のように組み合わさりながら、流れ作業のように整然と進んでいく。それはまるで巨大なコンビナートのようだ。

     電子顕微鏡で細胞の中をのぞくと、一つひとつの化学反応を起こす酵素の分子が、びっしりと並んでいることがわかってきた。このような構造を人工的に作りたいのだが、これまでは技術がなかった。

     そこで役に立つのが「折り紙」の発想だ。折り紙は、折り方によって色々な形を作り出すことができる。

     DNAは二重らせん構造をしたひも状の分子だが、配列をデザインして合成すると、折り畳まれて1枚のシートになる。穴をあけたり、折り曲げて筒にしたりすることができるようになる。色々な酵素分子を並べる基板としても利用が見込める。

     1枚のDNAのシートに2種類の酵素分子を10ナノ・メートル(ナノは10億分の1)間隔で並べ、2段階の化学反応を起こさせてみた。すると、2種類の酵素を単純に混ぜて反応させるより、ずっと効率が良くなることがわかった。さらに改良すれば、光合成のような複雑な反応も可能になるだろう。

    2014年04月05日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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