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    第9回シンポ~社会と科学者(下)

    • 平川新・東北大学災害科学国際研究所長・教授
      平川新・東北大学災害科学国際研究所長・教授
     ◇家作りに先人の知恵

     平川新・東北大学災害科学国際研究所長・教授

     「歴史研究から災害を考える」

     地震や津波など、過去にどのような災害が起き、人間がどのように災害に対処しようとしてきたかなどを研究している。

     歴史を振り返ると、家を作ることは災害から身を守る第一歩で、それぞれの地域の自然条件の差が反映されている。豪雪地帯の岐阜県白川郷の建物は大雪につぶされないように、屋根の傾斜を非常に大きくしている。台風被害を頻繁に受ける沖縄では、重たい瓦を屋根に乗せ、柱も頑丈にして、風の被害が少なくなるようにしている。

     しかし明治以降、人間は科学技術で自然を封じ込められると考えるようになった。

     岩手県宮古市田老地区では、昭和三陸地震(1933年)の津波被害などを受け、巨大な防波堤を造った。「これで津波は防げる」と安心し、堤防の後ろ側に多くの住宅が建てられた。2011年の東日本大震災の津波はこの堤防を安々と越え、家を押し流した。過信が悲劇を生んでしまった。

     非常に大きな地震や津波が来たらどうすればいいのか。震災を教訓にして、個人や家庭、企業など、それぞれの立場で考えることが大切だ。

     歴史から災害を見てみよう。震災時の津波の浸水域を見ると、仙台湾や三陸沿岸では、縄文時代の遺跡が浸水域から外れていることがわかる。津波被害が大きかった岩手県釜石市でも、浸水域ぎりぎりのところに寺社が並んでいた。昔の人は、津波がどこまで来るのか想定していたのではないだろうか。偶然かもしれないが、背景に何があるのかを考えてみることが大切だ。

     過去の災害記録の整理も重要になる。犠牲者が出るほどの大津波は、約400年前から宮城県などで8回起きていることが明らかになった。歴史事実を地域作りに生かすためのデータを提供することができる。

     個人宅に眠る古文書を収集し、保全する活動にも取り組んでいる。全国ではまだ10億点は史料が眠っているとされ、研究に活用されているのは数%に過ぎない。古文書の発見や解析が進めば、日本の災害の歴史も解明されていくはずだ。

     

    • 山中伸弥・iPS細胞研究所長・教授
      山中伸弥・iPS細胞研究所長・教授
     ◇難病治療の創薬目標

     山中伸弥・iPS細胞研究所長・教授

     「iPS細胞・これからの取り組み」

     整形外科医としてスタートした私が研究者に転じた理由は二つあった。手術があまり上手ではなかったことと、本当に腕のいい先輩医師でも治せない病気がたくさんある現実だった。

     例えば、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という難病がある。全身の筋肉がまひして、最終的には人工呼吸器を装着しないと生きていけないが、いまだに根本的な治療法がない。「治せない病気を治したい」と、大学院に入り直した。

     留学先の米国で、ES細胞(胚性幹細胞)に出会った。受精卵から作るES細胞は無限に増やすことが可能で、体のすべての細胞を理論上、作り出すことができる。このような万能性をなぜ維持できるのかについて研究を始め、関連する遺伝子をいくつか見つけた。

     2006年、ネズミの細胞に四つの遺伝子を導入すると、ES細胞にそっくりな「万能細胞」ができることがわかり、iPS細胞(人工多能性幹細胞)と名付けた。翌年には人の細胞でも同じことに成功した。

     4年前にiPS細胞研究所ができた際、10年間で達成する目標を掲げた。一つ目は、iPS細胞の技術を確立して知的財産(特許)を確保することで、ほぼ達成できた。

     二つ目は再生医療用のiPS細胞をストックする計画だ。現在、iPS細胞を作るための血液をボランティアから採取する手続きを順調に進めている。

     三つ目は、iPS細胞由来の細胞を患者に移植する再生医療の臨床研究を始めること。日本は間違いなく世界のトップを走っており、京大では神経難病のパーキンソン病や血液の病気の患者で臨床研究を行う予定だ。

     最後の目標が創薬だ。一例を挙げると、我々の研究所では、ALS患者のiPS細胞から神経細胞を作り、この病気特有の異常がどういうものなのかを見つけた。何万種類もある薬の候補から、この異常を治す薬を探そうとしている。

     iPS細胞の技術を使えば、卵子や精子を作ることも、豚の体内で人の内臓を作ることも夢ではなくなった。昨年、研究所内に生命倫理を考える専門部署を設けた。倫理問題にも積極的に関わっていきたいと考えている。

     

     

     ◎質疑応答

     震災の経験 どう伝えるか問題/色々なことに興味 新たな発見

    • シンポジウムで質疑応答にこたえる講演者ら(15日、仙台市の仙台国際センタ
      シンポジウムで質疑応答にこたえる講演者ら(15日、仙台市の仙台国際センタ

      

     岩田 科学で得られた成果を社会にどう還元すべきかをテーマにしたい。「どんどん新しい化学製品が生まれるが、最後はどう始末するのか」という質問を会場からいただいた。

     山子 化学物質と名前がつくと、すべてが悪いものという印象を持たれるが、天然物を基にして、人工的により良いものができている。だが、公害で被害を受けた人もいる。科学技術が悪いというよりも、使う側の倫理の問題だろう。

     岩田 エネルギー問題を抱える人類は、どうすれば生き延びていけるのか。

     森井 天然資源だけで、全世界が豊かな社会生活を送ることは不可能だ。エネルギーや資源を、何らかの形で人工的に作ることは避けられない。人間は今後、太陽エネルギーを密度の高いエネルギーに変換することにチャレンジしていくだろう。

     岩田 東北大災害科学国際研究所は文系と理系の研究者がうまく共同研究している。文理連携のコツを教えてほしい。

     平川 災害に関わる多くの分野の研究者が、災害についての情報を社会に役立てようという思いで取り組んできた。社会への情報発信という点では、東日本大震災の経験を将来にわたってどう伝えていくかという問題がある。研究所としては、国内外の組織や団体と連携しながら、あらゆる災害記録を、利用しやすいデータベースにする作業を進めている。

     岩田 正確な情報を社会に伝えることは難しい。

     山中 一つのことを伝えるには、10倍くらい努力しないと伝わらない。1回言っただけでは誤解されている場合もある。普段から同じことを何遍も繰り返して伝えることが大切だ。

     河合 心理療法に関しては、特殊なことが実は普遍的な真理を持っていることも多い。秘密保持を考慮しつつ、どれだけ普遍的なことをつかみ取って伝えていくかが大事になる。

     岩田 最後に、次世代への思いを聞きたい。

     河合 人の心の中は誰も見たことがなく、その意味では、臨床心理学は難しい学問だが、これまでに学んだことや経験が必ず生きてくる。

     山子 色々なことに興味を持っていると、思いがけないところに新しい発見がある。そういうことが常に心の中で準備できている人に育ってもらいたい。

     森井 化学でも物理でも何でもいいので、基本になる方法論を身につけてほしい。その上で、自由な発想で自分なりの疑問を投げかけてほしい。

     平川 学説にとらわれるな。いくら偉い先生が書いていても「違うのではないか」と思うことが次のステップにつながる。

     山中 高校では専門的なことを教わるのでなく、クラブ活動や学園祭などをどんどん経験してほしい。色々と失敗することで、器が大きくなる。

     

     「社会問題に目を向けて」

     松本紘・京都大学長あいさつ

     震災からの復興、エネルギー不足、地球温暖化など、我々は乗り越えるべき様々な課題に直面している。大学人や科学者は、こうした社会問題に目を向けていかなければならない。今回のシンポジウムは、若い人たちに大きな夢を与えられるのではないかと期待している。

     

     「批判にも応える姿勢を」

     里見進・東北大学長あいさつ

     東日本大震災の被災地・仙台での開催は、「震災を決して忘れていないぞ」という京都大の力強い支援と考え、感謝している。大学は社会に成果をわかりやすい言葉で発信するだけでなく、批判にも応える謙虚な姿勢が求められている。最先端の研究に触れ、提言も堪能してほしい。

    2014年04月05日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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