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    「木のミクロな仕組みから分かること、見えること」 生存圏研究所 杉山淳司教授

     私たちの研究所には「材鑑(ざいかん)調査室」という部門がある。木材の標本を管理、識別、分類し、国内外の研究機関と交換している。歴史建造物や民家の古材は、国内の他の研究機関にはないコレクションだ。奈良県斑鳩(いかるが)町の世界遺産・法隆寺の五重塔を中心で支えた「心柱(しんばしら)」も所蔵する。

    ◆木材はタイムカプセル

     木材は各時代の植生や文化、気候変動、太陽の活動などがわかる「タイムカプセル」だ。年輪や木材に含まれる放射性炭素から伐採年代などが測定でき、酸素の同位体の割合を調べれば、年単位の降水量の変動がわかる。DNA(デオキシリボ核酸)は壊れにくく、100~200年前の木材からも抽出できる。

     標本をさらに収集、公表し、広く使ってもらいたい。展示も行い、小中学生や高校生らの見学を積極的に受け入れ、木材にどんな良さがあり、何の研究に使われ、なぜ研究が大事なのかをアピールしている。

    ◆木造の文化財を最先端技術で分析する

     私の専門は木材の構造だが、その知識を歴史学や考古学にも役立てられればと考え、文化財保護にも携わっている。どのような木なのかを調べるには、観察したい面をナイフで切り、どんな組織がどのように並んでいるのかを立体的に把握できれば、ルーペでもある程度は見分けられる。顕微鏡で識別する際の特徴をまとめたリストも出版されている。

     ただ、文化財の調査は難しい。試料を勝手に採取できず、修理の際にやむを得ず欠け落ちた破片を使うからだ。トゲぐらいの大きさしかない場合もある。それでも、1ミリ・メートル四方の断面には細胞が約1000個も含まれ、ものすごい情報量がある。

     微細な試料でも二度と入手できず、できる限り破壊せずに残したいので、X線のCT(コンピューター断層撮影法)で分析する。顕微鏡レベルの分解能が必要なので、大型放射光施設「SPring―8(スプリング8)」(兵庫県佐用町)が発する強力なX線を使うこともある。

     1800枚の透過像を撮り、スライスした断層像や立体像に再構築する。水を通す管の細胞の内側に、らせん状の隆起が見え、この形などで樹種を判別できる。1個の細胞が見えるだけでもわかり、非常に素晴らしいテクニックだ。

     こうした分析法が役に立った例がある。

     熊本県の八代市立博物館が、豊臣秀吉の朝鮮出兵に参加した小西行長の企画展を開き、それに向けた調査で、ある民家から朝鮮由来と伝わる面が見つかり、韓国で注目が集まった。地元の史書には、朝鮮出兵に駆り出された農家が、朝鮮の面を持ち帰ったと記されている。韓国の国宝に指定される民族舞踊の面のうち、行方不明になった1枚の可能性があるとして、韓国から調査団も来た。

     鑑定を依頼されたが、サンプルはあごの部分から欠け落ちた破片で、カビで腐ってスポンジのようだった。通常の観察はできなかったので、スプリング8で調べた。韓国の国宝の面はハンノキで作られているが、熊本の面は全く特徴の違うヤナギが素材だと判明した。

    ◆樹種の識別法の継承を

     世阿弥の生誕650年と国立能楽堂の30周年を記念し、哲学者の梅原猛氏が書き下ろしたスーパー能「世阿弥」では、芸能の神とされる天河神社(奈良県天川村)に伝わる面の複製を作り、公演に使うことになった。これを機に、面を科学的に調査することになり、材料の鑑定を依頼された。もともとクスノキと言い伝えられていたが、デジタル顕微鏡などで調べた結果、やはりクスノキの可能性が高いことがわかった。伝説が証明され、すごく喜んでもらえた。

     我々は、みかんの糖度を測って選別する「近赤外線吸収法」を利用し、似通った樹木の化学成分を測ることによって選別する方法も開発した。この方法を用いれば、アカマツとクロマツの材が正確に見分けられる可能性が出てきた。2005~10年度に国の重要文化財の知恩院集会(しゅうえ)堂(京都市)が修復された際、屋根に使われたマツの種類がわからなかったが、この方法によって、場所ごとにどういう用材を選択したのかなども詳しく把握できると思っている。

     樹種の識別は簡単にできる訳ではなく、熟練が必要だ。テクニックを学生に伝え、継承し、社会に貢献したい。大工さんの経験論だけでなく、少しずつでも科学的なデータを蓄積し、歴史学や考古学の足しになればいい、という気持ちで取り組んでいる。

    □すぎやま・じゅんじ□ 1985年、京都大農学研究科修士課程修了。東京大助手、京都大木質科学研究所助教授などを経て、2006年に現職。

    ◆Q&A

    Q:標本はどう管理しているのか。

    A:標本庫は3台の除湿器を入れ、湿度をこまめにチェックして60~50%以下に保ち、クーラーで27度にしている。オープンキャンパスでは子供らにも触ってもらう。アルコールを時々塗布するぐらいで、常時やっているのは、主に除湿だ。

    Q:どんな場合にDNAの同定やスプリング8の利用、近赤外線吸収法が有効なのか。それぞれの方法の長所を教えてほしい。

    A:顕微鏡は迅速で簡便だが、鑑定できる範囲は、種よりも大まかな分類である「属」のレベルまで。一部を除くと、種の鑑定までは難しい。

     今のところ木材から抽出したDNAと比較し、樹種を特定できるようなDNAのデータベースは、まだ完成していない。特定の部位、特定の遺伝子による検証はすでに実施されている。伐採が禁止された木材の遺伝子を採取することで、問題の種であるかどうかをチェックする手法が税関で用いられている。

     CTは、ものすごく小さなサンプルでも丹念に調べることができ、サンプルを破壊せずに残せる。近赤外線は簡便だが、使えるのはアカマツとクロマツのように、特定の2種類を判別する時だ。

    2013年06月24日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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