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    「湖沼・海洋の微生物はダイナミックに生きている」 生態学研究センター 中野伸一センター長

     生態学研究センターは、滋賀県大津市のJR瀬田駅から少し離れた山の中にある。生態系について、野外での現象の観察、実験による検証、理論的な研究の三つを行っている。あらゆる切り口から、自然界を明らかにしようと考えている。

    ◆食物連鎖は二つある

     微生物とは、おおむね1ミリ・メートルより小さな生物のことだ。海や湖には、1ミリ・リットルあたり数百万~数千万もの微生物がいる。最も小さいのが細菌で、大きさは0・2~2マイクロ・メートル(1マイクロ・メートル=1000分の1ミリ・メートル)だ。

     水中では、ケイ藻(20~200マイクロ・メートル)のような単細胞の植物プランクトンを、ミジンコのような多細胞の動物プランクトンが食べ、さらに大きな魚の餌になる。このような食物連鎖を「生食(せいしょく)連鎖」と言う。

     これ以外にもうひとつ、微生物の間にも食物連鎖がある。「微生物ループ」と呼んでいる。出発点は細菌だ。小さすぎて、動物プランクトンの餌にはならない。

     細菌を食べるのは、単細胞の原生生物(2~20マイクロ・メートル)だ。このうち鞭毛(べんもう)虫や繊毛虫の仲間は細菌を積極的に食べ、死骸は細菌に分解される。細菌が増える速さと、原生生物が細菌を食べる速さは、だいたい釣り合っている。

     下水処理場で生活雑排水を浄化している活性汚泥は、この仕組みをうまく利用している。活性汚泥の中にいる細菌が汚れ成分を餌にして分解し、増え過ぎた細菌を繊毛虫が食べる。こうして、水の浄化を続けているのだ。

    ◆宇和海の食物連鎖

     愛媛県の宇和海では、太平洋からの潮の流れ込み方によって、食物連鎖の仕組みが変化していることが、我々の研究でわかった。

     海底に近い「海洋深層水」は水温が低く、窒素やリンを豊富に含んでいる。この層の潮が流れ込むとプランクトンが増え、これを食べる魚が集まって豊漁になる。しかし水温は低いので、細菌は増えず、微生物ループは動かない。

     逆に、海の表面にある温かい潮が流れ込むと、水中の細菌が増えて微生物ループが活性化される。海表面の海水は窒素やリンが少ないので、プランクトンは増えない。プランクトンを餌にする魚類も集まらないので、漁獲量は落ちることになる。

     この潮の入り方は、年によっても違うが、大体2週間周期で入れ替わっている。漁師の人たちはこのことを経験的に知っていて、海面付近と海底付近の水温を調べ、養殖いかだの管理に役立てている。目の前に広がる海の風景は全く変わらなく見えても、海水温と微生物を調べてみると、海の中の生態系は様相を一変させている。微生物の種類はアコヤガイやカキなどの貝類の養殖の出来具合にも影響する。水中の環境を把握するには、微生物を調べなくてはならないということだ。

     淡水の琵琶湖では最近、水質の改善が進み、透明度も上がっている。ところが、なぜか水中の有機物濃度だけは上昇を続けている。この現象にも微生物が関わっているとみられ、研究を進めている。

    □なかの・しんいち□ 東京農工大卒。1994年、京都大で理学博士号を取得。滋賀県琵琶湖研究所研究員、愛媛大教授などを経て、2008年に京大生態学研究センター教授。今年4月から現職。

    ◆Q&A

    Q:琵琶湖の水質に、ブラックバスやブルーギルといった外来魚の増加は影響しているのか。

    A:ブラックバスやブルーギルが微生物の生態系にどのような影響を与えているのかは、まだよくわかっていない。琵琶湖のアユはミジンコを狙って食べるので、アユが多いか少ないかということが、微生物の生態系に影響を及ぼすことは判明している。

    2013年08月19日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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