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    「ジュゴン、ウミガメ、オオナマズを追いかける~希少水圏生物の保護と共存」 フィールド科学教育研究センター 荒井修亮教授

     希少動物を保護する目的のワシントン条約と、センサーやカメラを動物に取り付けて生態を調べるバイオロギング、さらにバイオロギングを使ったウミガメ、ジュゴン、メコンオオナマズの生態調査についてお話しする。

     ワシントン条約の目的は、輸出国と輸入国が協力して、絶滅のおそれのある野生動植物の保護を図ることだ。条約に記載されている動物をどう保護すればよいかを考えるうえで、有益なデータをもたらすのがバイオロギングだ。

     バイオロギングは、動物に発信機や記録計を装着して行動を追跡する手法だ。日本の研究者が使い始めた和製英語だが、今では世界的に定着した。例えば、アザラシの頭に発信機を付けて、人工衛星に電波信号を送る。また、加速度や水深などが保存される記録計もある。今やこの手法で、色々な動物の行動が分かってきた。

    ◆きっかけは漁業問題

     我々は主にタイをフィールドにして研究してきた。

     まずはウミガメの話をしよう。調査のきっかけは、タイにおけるエビ漁と関係がある。当時、タイは毎年、数百億円の外貨をエビ輸出で稼いでおり、最大の輸出先は米国だった。

     ところが突然、米国がエビの輸入禁止を通告してきた。ワシントン条約でも保護されている希少種のウミガメを混獲する漁法は認めないという法律が米国で成立しており、タイのエビ漁法はその恐れがあるというものだった。米国の法律を国外で適用することになるので、タイや東南アジア諸国連合(ASEAN))諸国は非常に驚いた。

     ウミガメは漁業の対象ではないが、網で魚をとると、誤って入ってくる。入ったウミガメを逃がす「TED」という特殊な装置を付けた網があるが、TEDはステンレス製の「すのこ」なので、操業がしづらくなるし、重い。余分な燃料もかかるので、小規模漁業では普及が進まない。

     タイの水産当局には、もう一つ言い分があった。それは「カメの混獲は多くない」というものだ。タイにいるのはアオウミガメやタイマイで、海藻や海綿を食べている。そんな海域では網は引かないので、混獲は起きないと主張した。だが、米国側は「ウミガメがどこにいるのか知っているのか」と反論してきた。そこで、我々がタイ当局から協力を求められ、2000年からバイオロギングによる生態調査を始めた。

    ◆国境を越えるウミガメ

     調査は、タイの水産局の研究所と協力して進めた。発信機を装着したウミガメを、アンダマン海側のフーヨン島と、タイ湾側のクラム島の2か所の産卵場から放流し、回遊経路を調べた。調査が進行中だった04年12月にはインド洋大津波が発生した。フーヨン島で調査を行っていた学生は「死ぬかと思った」と話していた。私はバンコクにいたが、彼らと連絡が取れず、心配した。フィールド調査には、そういう危険もある。

     調査の結果、ウミガメは非常に遠くの方まで回遊することが分かった。フーヨン島で放流したウミガメは、アンダマン諸島(インド)まで泳ぎ、クラム島で放流したウミガメはシンガポールやインドネシアの方まで泳いで行った。40日以上をかけて3000キロ・メートル近くも移動した例もある。これで分かるのは、ウミガメは国境を越えて回遊しているため、タイ一国だけでは保護は無理ということだ。別の調査では、砂浜で卵がふ化した後の子ガメのウミへの移動や遊泳の様子も分かってきた。

    ◆普天間基地とジュゴン

     次はジュゴンの話。ジュゴンの仲間は「海牛(カイギュウ)類」という。カイギュウ類のうち、ステラーカイギュウはかつて、北太平洋に多く生息していたが、乱獲で絶滅した。今残っているカイギュウは、ジュゴンとマナティー。尾が切れ込んでいるのがジュゴンで、円いのがマナティーだ。

     ジュゴンは太平洋の西側とインド洋に赤道を挟んで南北の温かい浅海域に分布し、マナティーは南米および西アフリカが生息域だ。ジュゴンの生息域の最北端が沖縄本島周辺海域となる。そこで問題になったのが、米軍普天間基地の移転だ。予定地の辺野古付近はジュゴンの生息に適した海域で、実際、ジュゴンが生息している。沖縄本島周辺のジュゴンをいかに保護するのかを目的に、生態調査が始まった。ただし、すでに沖縄本島周辺にはわずかなジュゴンしか生息していないため、比較的多数のジュゴンが生息しているタイが調査の場になった。

     ジュゴンを捕まえて発信機をつけるのは、タイにおいても難しい。そこで、生態を調べるには、ジュゴンの声を聞くのがいいということになり、塩ビの太いパイプに乗用車のバッテリーや録音用のハードディスクを封入した水中録音装置「AUSOMS」を作った。この装置でジュゴンの「ピヨピヨ」という鳥に似た鳴き声をとらえ、周波数を時系列でグラフ化した「ソノグラム」を作成し、解析した。

     録音装置の設置場所を決めるため、まずはハンググライダーにエンジンを付けた超軽量飛行機で、100メートルほど上空から目視調査を行った。2人乗りで、前にパイロット、後ろに研究者が座るのだが、怖いし、揺れで気持ちが悪くなるし、大変だった。よく無事に調査できたと思う。

     調査を通じて、ジュゴンの生活がだんだん分かってきた。例えば、ジュゴンは大潮や小潮などにかかわらず、早朝によく鳴く。どうやら人間の活動が始まる前に行動しているようだ。

     「プレイバック実験」も行った。ジュゴンは声でコミュニケーションをしている可能性が大きい。録音したジュゴンの声を海中に流し、周辺にいるジュゴンの反応を調べた。ジュゴンの声をそのまま流すのと、人工的に作った音を流すのと、何も流さない場合とで比較したところ、ジュゴンの声に対しては鳴き返してくる一方、人工音には鳴き返しが少なかった。仲間の声に対して鳴き返すということは、声に何らかの意味があるということだ。

     ジュゴンが食べる海草が生えている場所は、干潮になると水面に顔を出し、食(は)み跡が見える。干潟に高さ5メートルの鉄塔を建てて、その上にデジタルカメラを設置し、5分ごとに連続写真を撮影したら、新しい食み跡がくっきり映し出された。この近くに録音装置を仕掛け、ジュゴンが海草を食べる音も録音できた。音の重なり具合から、頭数も分かる。

     ジュゴンと人間が共生できる豊かな海を実現することが重要である。ジュゴンのエサである海草が繁茂する環境は貝や魚が豊富で、人間にとっても大切な環境だ。しかし、このような海域では、刺し網や定置網にジュゴンが誤ってかかることもある。ジュゴンの声の研究は、漁船から水中マイク(ハイドロフォン)を曳航してジュゴンの声をとらえ、ジュゴンがからまないよう網を揚げるといった保護対策につながる。

    ◆メコンオオナマズは昼間に活動

     メコンオオナマズは体長3メートル、体重300キロ・グラムにも達する最大級の淡水魚だ。タイでは完全養殖に成功しているが、自然界では激減している。このナマズの調査を2002年から始めた。

     腹腔(ふっくう)内に超音波発信機を付けてから放流し、受信機で動きをとらえる。メコン川で10匹を放流し、5匹の追跡に成功した。4匹は上流、1匹は下流へ移動した。残りはラオス側に逃げてしまったとみられる。続いて、タイ北部のダム湖であるメプン湖で追跡実験を行った。24匹に発信機を取り付けて放流、14台の受信機を使い、連続1年3か月間の追跡に成功した。その結果、ナマズはそれほど広い範囲で動いていないことや、垂直方向の移動解析から、活発に動いているのは昼間であることなどがわかった。こうしたデータは、今後の保護方針づくりに役立つ。

    □あらい・のぶあき□ 1980年、京都大農学部水産学科卒業。農林水産省勤務の後、京大情報学研究科准教授などを経て、2013年4月にフィールド科学教育研究センター教授。1997年には第39次南極地域観測隊に参加した。

    ◆Q&A

    Q:3種類の動物が絶滅の恐れがあるという要因は、乱獲だろうが、繁殖力も弱いのか?

    A:ジュゴンはそうだと思う。妊娠期間がヒトと同様に長く、授乳期間も長い。メコンオオナマズは、卵はたくさん産むが、乱獲に加え、メコンの河川改修も影響しているようだ。源流は中国で、タイと中国で交易が盛んになり、大きな船を安全に通そうと川底を掘削したため、エサとなる水草が繁茂できる岩盤が少なくなっている。沖縄でのジュゴン減少の理由としてよく言われるのは戦後の食べ物事情だが、実際は大正から昭和にかけてたくさん捕られたようだ。つまり終戦以前に、すでに乱獲があったと思われる。人類学では、現生人類の祖先はアフリカから出て拡散したが、いくつかルートがあったと言われる。そのひとつは海沿いと言われているが、海沿いで簡単に取れる大型動物はジュゴンで、人類はジュゴンを追って東に行き、終着点が沖縄ではないかと考える研究者もいる。

    Q:沖縄でジュゴンが生息できる可能性は?

    A:実は沖縄本島周辺には現在、3頭が確認されている。細長い沖縄本島を挟んで西側にメスが1頭、東側にオスが1頭いる。もう1頭は恐らく彼らの子供だ。その子供が3日ぐらいかけて、両方の海域を行ったり来たりしている。この3頭をいかにして守るかを考えたい。

     沖縄本島以外にも生息の可能性がある。ジュゴンのエサはアオウミガメと同じ海草であるが、アオウミガメは増えているようだ。つまり、エサは十分ある。おそらく先島諸島にも生息していると考えている。何とか見つけようとしているが、なかなかしっぽを出さない。

    Q:発信機や記録計を取り付けているが、どんな記録を取っているのか。

    A:超音波発信機を使う際は、かつては船で追跡した。指向性マイクを使い、位置を全地球測位システム(GPS)で確認するが、追いかけられるのは、せいぜい24時間。人間が疲れてしまう。今はもっとスマートな方法がある。受信機を3台、正三角形の頂点に配置し、信号を同時受信できれば、発信機からの距離に応じて受信時間が変わるので、数メートルの精度で追いかけることができる。現在タイで受信機をたくさん設置しているのは、そういう理由だ。

     動物の体に取り付けるデータロガー(記録装置)は、位置が分からないのが難点。海水は電波を通さず、GPSが使えないからだ。ウミガメは呼吸するから、水面に出たところで位置が分かる。3次元の動きは、記録された加速度などから計算し割り出している。

    Q:どれくらい小さな動物まで測れるのか。

    A:機器はかなり小さくできる。超音波発信機も今や直径5ミリ・メートル程度で、稚魚にも使える。技術革新が欲しいのは電池だ。これが大きさの限界を決めている。

    2013年09月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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