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    「世界の野生動物をフィールドワークする ヒマラヤから海中まで、氷河から熱帯雨林まで」 野生動物研究センター 幸島司郎センター長

     野生動物研究センターは2008年に設立された新しい研究所だ。この年はフィールドワークで有名な京都大にとって象徴的な年で、霊長類学者の今西錦司さんがアフリカを探検し、第1次南極越冬隊長の西堀栄三郎さんが初越冬した1958年から、ちょうど50年を迎えた。

     センターには約10人の教員と20人以上の大学院生がいる。フィールドワークの伝統を再興し、あまり研究や保全が進んでいない野生動物を対象にしている。しかし私が最初に研究を始めたのは、雪氷の中にいる小さな生き物だった。

    ◆氷河にも生態系がある

     サルの研究がしたくて京大理学部に入学したものの、山岳部で山ばかり登っていた。日本の動物行動学を創始した日高敏隆先生がその頃、京大に移ってこられて、研究テーマについて相談したところ、「山で何か不思議なことを見つけてこい」と言われた。日高先生は昆虫が専門だったこともあり、北アルプスの剣沢雪渓(つるぎさわせっけい)で見つけたセッケイカワゲラの研究を始めた。

     最初は、何でこんな寒い所に生息しているのか不思議だった。調べてみると、このカワゲラは、雪の中でないと生きられないことがわかった。誰も知らないことを徹底的に研究したいと思うようになった。

     剣沢は、1万年前は氷河だった。文献を調べると、氷河に虫がいるなんてどこにも書かれておらず、「チャンスだ」と思った。ヒマラヤの氷河に3年間通い、氷河でしか生きられない新種の昆虫を発見して、ヒョウガユスリカと名付けた。

     この虫は夜、メスだけが氷河の上流に向かって歩き出す。氷河は下流に流れるので上流で卵を生むための適応だと考えた。ではなぜ上流がわかるのか。鏡を使った実験で、太陽の方向から方角を知る「太陽コンパス」を使っていることを確かめた。

     氷河に行くたびに新しい生き物が見つかった。氷河の上をはい回るミジンコがいた。この生き物たちは何を食べているのだろうと調べると、光合成をする藻類だった。つまり、氷河にも生態系がある。それを世界で初めて明らかにできた。

    ◆様々な動物を研究

     私の研究室には動物好きの学生が集まってくる。彼らの興味に従って、様々な動物の研究を行っている。

     例えば、イルカがいつ、どうやって寝ているのかを調査した。水族館で24時間観察すると、ゆっくりと遊泳しながら休息しており、片方の目を閉じていた。閉じた目と反対側の脳半球を、交互に休ませているらしい。野生イルカでも確認したら、やはり片目を閉じて休息していた。

     マレー半島などで生息地の森が失われつつあるオランウータンが、何をどのくらい食べているのかも観察した。特に果実が欠乏する時期には、イチジクの実と、スパトロブスというツル植物の葉ばかり食べて生き延びていることがわかった。

     さらに、森の中には、塩分を含む水が湧き出す「塩場」が点々とあり、カメラを仕掛けると、アジアゾウや希少な牛、鹿などの草食動物が塩場の泥を食べに来ていた。驚いたことにオランウータンやトラも現れた。

     野生動物と人との共存を実現するには、何を食べているのかといったことなど、まずは彼らをよく理解しなければならない。

    ◆理想の動物園を

     センターでは、生息地で野生動物を観察する施設の整備計画を進めている。自然環境に限りなく近い場所で動物本来の姿を詳しく観察し、地元住民や観光客にも研究や保護活動に参加してもらう。まさに理想の動物園で、我々は「フィールドミュージアム」と呼んでいる。

     来年からアマゾンで実現することが決まり、マナティーやカワイルカなどの施設を整備する予定だ。同様に、絶滅が危惧される野生動物がたくさんいるマレーシアやインドにもフィールドミュージアムを広げ、活躍できる人材を育てていきたい。

    □こうしま・しろう□ 1990年京都大理学部卒。日本学術振興会特別研究員、東京工業大准教授などを経て、2008年に京大野生動物研究センター教授。11年10月から現職。

    2013年11月25日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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