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    生命の惑星を支える海の微量元素 化学研究所 宗林由樹教授

     地球の海は、40億年以上の歴史があり、多くの生物を育んできた。生物は、光合成によって有機物を合成し、それとともに酸素を放出して地球表面の環境を大きく変化させた。光合成をする海の生物が成長するには、炭素、窒素、リンなどに加え、さまざまな微量の元素が必要になる。海の微量元素の研究で得られた知見などを紹介したい。

     ◇鉄まくとプランクトン20倍

     海洋で植物プランクトンの分布を調べると、南極海などでは、海水中で栄養になる窒素やリンが余っているのに、植物プランクトンは増えていない。

     主な原因と考えられているのが、鉄の不足だ。生物にとって鉄は非常に重要だ。光合成に使われるたんぱく質などに含まれ、いろんな生化学的な役割を果たす。しかし海水中では、酸素によって酸化され、水と反応して沈殿するので、濃度が極めて低い。

     そこで、鉄をまけば植物プランクトンが増えるのではないかと、米国の海洋学者が提案した。鉄を散布する実験が世界で12回行われ、私たちも参加した。

     2001年にカムチャツカ沖の1辺10キロほどの海域に350キロ・グラムの鉄の化合物をまくと、植物プランクトンの量は約20倍に増えた。

     ◇国際共同観測を

     ただ問題なのは、この実験では科学的な知見が限られていることだ。実験はせいぜい1か月までで、鉄をまいた範囲も南極海に比べると小さい。大規模に実施すれば、副作用で生態系を大きく変える可能性があると考えられている。

     海水中のわずかな鉄を測るのはとても難しく、濃度がわかるようになってきたのは、1980年代後半になってから。海水でナトリウムや塩化物といった主要な成分は、どこでもほとんど均一な割合になる。日本でも英国でも、海水をなめたら同じ味がする。しかし鉄などの微量の成分は場所によって変わる。

     微量でも生物に必須だったり毒だったりする重要な金属が、海洋にどう分布し、時間によってどう変化しているのか、国際共同観測で明らかにしようとしている。

     微量元素の分布が生物とどう関わっているのか、その詳細はまだ謎に包まれている。

     □そうりん・よしき□ 1992年、京都大で理学博士号を取得。京都大化学研究所教務職員、同助手、金沢大工学部助教授を経て、2000年から現職。専門は分析化学と水圏化学

    2014年04月21日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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