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    iPS細胞でがん治療 再生医科学研究所 河本宏教授

     人の体内には、がん細胞だけに狙いを定めて攻撃する性質を持つ免疫細胞がわずかながら存在する。「キラーT細胞」と呼ばれ、この細胞の性質を利用する「がん免疫細胞療法」は、次世代のがん治療法として注目され、世界各国で開発が進んでいる。一部の国では臨床試験(治験)も行われている。

     ◇免疫細胞を量産

     治験の主な方法は、この細胞を体外に取り出し、試薬などで増やして活性化してから体内に戻して働かせるというものだ。だが、この場合、寿命は短く、治療効果が十分ではない。効果を高めるには、若く元気なこの細胞を大量に増やすことが重要となる。

     そこで私たちは、様々な細胞に変化できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の技術に着目。皮膚がん患者のT細胞からiPS細胞を作り、それを若く元気な元のT細胞に変化させ、大量に増やす方法を2013年に開発し、皮膚がんを攻撃する性質を持っていることも確かめた。

     元の細胞ががん細胞を攻撃する性質は遺伝子に刻み込まれているため、そこからiPS細胞を作り、再生させても、その性質が受け継がれるためだ。

     この方法を応用すれば、皮膚がんに限らず、様々な種類のがん細胞を攻撃するT細胞をiPS細胞で大量に作製できると考えられる。

     ◇5年後めどに臨床研究

     今後は、動物実験などで治療の安全性や有効性を確認し、5年後をめどに人での臨床研究を実施したいと考えている。がん患者に点滴で投与すれば、体の隅々まで行き渡り、これまで治療が難しかった転移がんなどでも治せるようになるかもしれない。

     患者ごとにiPS細胞を作っていては時間がかかり、その間にがんが進行するおそれがある。費用もかさむ。そこで将来的には、移植しても拒絶反応が起きにくい特殊なタイプの遺伝子型を持つ健康な人のT細胞からあらかじめiPS細胞を作って冷凍保存しておき、必要な時に治療に使える体制を整備したい。

     iPS細胞を用いたがん免疫細胞療法で、多くの患者を救いたいと願っている。

     □かわもと・ひろし□ 1986年、京都大医学部卒。京大病院などで内科医として勤務した後、京大医学部助手、理化学研究所チームリーダーなどを経て2012年から現職。専門は免疫学、血液学

    2014年05月19日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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