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    エイズウイルスの過去と現在 「HIV100年前から」  ウイルス研究所 小柳義夫所長  

     エイズウイルス(HIV)は1983年に発見された。81年に米国でエイズ患者が確認され、治療の施しようがない謎の病気として、日本にも広がるのではないかとパニック状態になった。

     当時、HIV感染者由来の血液製剤が米国から日本に輸入され、血友病患者の治療用製剤となっていた。私自身、その血液製剤を投与された患者にHIVを確認したが、まだ抗ウイルス剤はなく、死亡する確率が高いと患者に言わざるをえなかった。

     世界中に広がったHIVは最初、どこから人間界に入ってきたのか。

     その起源はアフリカの小型サルが約10万年前から持っていたウイルスと考えられている。遺伝子解析の結果、500年ほど前に複数のサルのウイルスがチンパンジーの集団に侵入していたことがわかってきた。チンパンジーがサルを捕食する際、サルの血を浴びることで感染したらしい。

     人への感染が次々と確認されたのは約30年前だが、実は100年ほど前には、チンパンジーから人間界にウイルスが入り込んでいた。血液などを介して人から人に感染することで、アフリカから欧米などに拡散していった。60年代に採血された陽性検体がアフリカのある都市の病院には残っており、当時、感染者はいても、病気として知られていなかっただけだった。

     HIVは、免疫細胞に侵入してもすぐに発症するわけでないが、抗ウイルス剤を飲まなければ通常7~8年後にはウイルスが急速に増えて免疫不全を起こし、死に至る。世界で4000万人近くの感染者がいる。

     ウイルスがどのように増えるのかの研究が進み、HIVが増えるのを阻害する抗ウイルス剤が次々と作られた。これらを飲み続けることで死亡率はかなり低下し、慢性疾患となった。ただ、ウイルスを完全に消すことはできず、早期発見が重要なことに変わりはない。

     エイズを根治するために、私の研究室では「ヒト化したマウス」を使ったウイルス感染実験を行っている。これは、生後間もないマウスに人の造血幹細胞を移植することで、マウスの体内に人の血液細胞を定着させることができる。これを使って新たな治療法の開発に貢献していきたい。

     □こやなぎ・よしお□ 1986年、京都大医学研究科博士課程修了。東京医科歯科大助教授、東北大教授などを経て、2004年から京都大ウイルス研究所教授。2014年4月から現職。専門はヒト病原性ウイルスの解析と治療法の開発。

    2014年07月21日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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