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    神道と仏教から見た心のワザ学と日本文化 「和歌、負の感情を浄化」 こころの未来研究センター 鎌田東二教授 

     身心を切り替える「ワザ」に焦点をあてたい。平安時代の古今和歌集こそが、日本文化の原型であると考える。日本人は四季の自然風景や心の状態を和歌に詠み、悲しみや痛みなどの負の感情を切り替えてきた。つまり和歌は「心を直す」力を持っており、日本の伝統的、根本的な「心のワザ学」と言える。

    • 品川セミナーで講演する鎌田東二・京大教授(京都大東京オフィスで)
      品川セミナーで講演する鎌田東二・京大教授(京都大東京オフィスで)

     古事記冒頭の国生み神話で、日本は「海月くらげなす漂へる」国と記され、クラゲのようにふわふわと浮かぶ島と形容された。実際に、日本列島は4枚のプレートが十文字に組み合わさっており、複雑な地殻変動を繰り返してきた。いたるところに活火山があり、地形は急峻きゅうしゅん。周囲には4つの海流が流れ込む。はっきりとした四季の変化があり、動植物も多種多様だ。

     さらに中国大陸、朝鮮半島、東南アジアからの文化も合流し、これらの多様性のもと、「やほよろず(八百万)の神」という多神教が生まれた。日本人は古代から、地震や噴火、台風など自然の荒ぶる事象を「ちはやぶる神」ととらえた。

     神道における心のワザ学とは、祭祀さいしなどによって魂を活性化し、生命力を強めることで負の感情を超える道である。

     神道は、6世紀に渡ってきた仏教と合わさって「神仏習合」という独自の文化を生み出した。日本人は自然の中に神を見て、心の中に仏を見てきた。仏教には、心をしずめる力がある。神道と仏教が結びついて生まれたのが「和歌即陀羅尼説」(和歌が仏の言葉であるとする思想)で、和歌を詠むことで心を浄化した。

     心のワザ学は中世以降、神仏習合の芸能である能につながり、近世にかけて茶道、華道、俳諧へと発展していった。能に登場するおきなは魔をはらい、怨霊をしずめ、世を祝福する神であり、ワキとして登場する諸国一見の僧には、煩悩を成仏させる仏教思想が見てとれる。能は極めて洗練された日本文化の精髄だ。

     心のワザ学は仏道修行にも結びついた。比叡山や吉野熊野などに入り、滝行や瞑想めいそうなどを行う。また刀作りや染色、陶芸などの日本独自の工芸にも、祈りと祭りを伴う心のワザ学がある。

     私は、現代は多極化し、戦国時代のような乱世の時代に突入したという「現代大中世論」を提唱している。阪神大震災や東日本大震災、集中豪雨などの自然災害が続く中、今一度、心の静けさをもたらす新たな日本文化が生まれてくるはずだ。

     □かまた・とうじ□ 1980年、国学院大文学研究科博士課程を単位取得で満期退学。2000年に筑波大で博士号取得。武蔵丘短大助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、京都造形芸術大教授を経て、08年から現職。専門は宗教哲学、民俗学。

    2015年03月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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