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    スピントロニクス 研究熱く

    電子機器の省エネ化期待

     電子の磁力を電子機器などに利用する「スピントロニクス」が注目されている。電子の磁力の向きに、デジタル機器で用いられる2進法の「0」「1」のような情報を割り当てて活用する研究が進んでおり、産業界で広く使用される半導体内部で、電流を全く使わずにデジタル情報を伝達することにも成功。電力消費を大幅に減らせる電子機器の開発への応用などが期待されている。(平井宏一郎)

    ■磁力の向き活用

     電子は、原子の中で原子核の周囲を回る場合、原子核から離れて自由に移動する場合を問わず、常に自転しており、回転することで磁力を発する。回転で生じる磁力を「スピン」と呼んでおり、回転が反時計回りなら上向き、時計回りなら下向きに放射される。

     個々のスピンは微弱だが、たくさんのスピンを同一方向へそろえることができれば、その力は強まる。特定の金属などが磁石として働くのも、スピンの向きがそろうためだ。

     このスピンの向きに、デジタル機器で用いられる2進法の「0」「1」のような役割を持たせて、情報の記録や処理などに利用しようという取り組みが、スピントロニクスだ。電子が電気を帯びる性質を活用する「エレクトロニクス(電子工学)」にちなんで名付けられた。

    ■「待機電力」なし

     スピントロニクスの利点は、大幅な省エネルギー化が望めることだ。

     パソコンで必要な情報を一時的に保存する「メモリー」は、必要なデータをすぐ取り出せるように、電子の「ある」「なし」で0か1かの情報を記録しているが、電子は放電によってすぐに減ってしまう。電子を供給し続ける必要があるので、電力を常に消費する「待機電力」が生じる。

     一方、スピンの向きで情報が記録できれば、スピンの向きをひっくり返すだけで情報の書き換えができる。新たな電子の補充はいらず、待機電力は生じない。

     こうした特色を半導体の開発に生かそうと研究を進めるのが、大阪大の白石誠司教授(物性物理学)らの研究グループだ。

     半導体内では一定の抵抗があるため、スピンの向きをそろえたまま電子を移動させるには、現状では電気の力を利用するしかない。待機電力が必要ないとはいえ、向きを変えるたびに電気を流す必要がある。

     グループは電流の代わりに、金属磁石と「マイクロ波」を利用する方法を考案。半導体材料のシリコンの一端に、強い磁力を持つニッケルと鉄の合金を密着させ、この合金内のスピンの周期と同じ周波数のマイクロ波を照射した。すると、合金内の電子の回転が強くなって推進力が加わり、スピンの向きがそろったまま半導体を移動。もう一端に付けた合金で、スピンの情報を検出することに成功した。

     白石教授は「シリコンでも、電流を使わずにスピンの情報が伝わることが確認できた。電流を使わない半導体の実用化に向け、さらに実験を重ねたい」と意気込む。

    ■課題は生成効率

     だが、実用化に向けてはいくつもの課題がある。スピンの生成効率はその最たるものだ。

     現在の技術では、電流を使わないとスピンの生成効率は上がらないが、それでも、情報を伝えるスピンは、流した電流の3%ほどしか発生させられないという。

     九州大の木村崇教授や浜屋宏平准教授らはこの課題を、内部のスピンの向きが一方向にそろう合金を作り、それを磁石として使うことで克服しようとしている。この方法だと、向きの違うスピンがぶつかり合って消えてしまう現象が防げるので、生成効率はこれまでの3%から30%ほどに向上させることができた。

     産業技術総合研究所の湯浅新治・ナノスピントロニクス研究センター長は「現在の方法はいずれも、スピン生成にエネルギーを使い過ぎてしまう。実用化には生成効率を高めていくことが欠かせない。20年近くかかるかもしれないが、電気を使うあらゆる機器の省エネ化につながる可能性があり、研究の意義は大きい」と話している。

    2013年03月25日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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