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    人工網膜 視力回復に光 2018年めどに実用化 大阪大

     網膜の異常で失明した患者の目に、電極チップなどで作った「人工網膜」を植え込み、視力の回復を図る臨床研究が大阪大で進められている。1例目の患者は、白色の物体の輪郭がぼんやりとだが分かるようになり、今月、2例目の手術も行った。4年後をめどに医療機器として国の承認を得たいという。(竹内芳朗)

     ◇49の電極で刺激

     この臨床研究は、阪大の不二門尚ふじかどたかし教授、神田寛行助教らのチームが、遺伝性の難病「網膜色素変性症」の患者3人を対象に昨年7月から始めた。患者は国内で約3万人いるとされ、緑内障、糖尿病に次いで中途失明の原因の第3位だ。

     人が目にした映像は、目の奥にある網膜の視細胞の働きで電気信号に変換され、脳の視覚野に伝わって〈見える〉ようになる。だが、網膜色素変性症になると、視細胞が徐々に消失し、電気信号が伝わらなくなって見えにくくなり、失明する。

     臨床研究では、網膜内にわずかに残る神経細胞を電気で刺激し、光を感じ取れるようにする。そのための手術として、患者の片方の目の網膜の外側にあたる強膜に刺激電極のチップ(5ミリ・メートル四方)を入れ、眼球内に微弱電流を流す。

     その電流が眼球内に埋め込まれた帰還電極に当たり、はね返ってきた電流が網膜内の神経細胞を刺激、視覚野に情報を伝えるという仕組みだ。

     こうした手術の後、患者はCCDカメラを内蔵した眼鏡をかける。目の代わりとなるカメラで撮影された映像は、体外の小型装置でいったん電気信号に変換され、側頭部に植え込まれた受信機を通じて、電極チップに伝わる。

     チップには、49個の小さな電極がついており、例えば、白色のタオルをカメラがとらえたら、タオルの形になるよう、電極が微弱電流を流し、その電流が帰還電極を経て網膜内の神経細胞を刺激、視覚野にタオルという情報が伝えられる。

     ◇白色判別できた

     不二門教授らは4年前、6人の失明患者に、同様の手法で臨床研究を行い、5人が光を認識できた。

     その際のチップの電極は9個だったが、今回は映像情報をより多く取り入れられるよう、電極数を5倍以上に増やした。さらに特殊な物質でチップを覆い、耐久性も向上、電極を体内に入れておく期間を従来の1か月から1年へと延ばした。

     網膜色素変性症で8年前にほとんど光を失った大阪府東大阪市の女性(64)は、今年1月に阪大病院で臨床研究に参加し、右目に電極を入れる手術を受けた。「それまでほぼ灰色の世界だったが、白い色への反応が良くなった。タオルや電球の位置がぼんやりと見えるようになった」と喜ぶ。

    • 人工網膜の手術後、視力テストで画面の白い部分を指さす女性患者(大阪府吹田市の大阪大病院で)=伊東広路撮影
      人工網膜の手術後、視力テストで画面の白い部分を指さす女性患者(大阪府吹田市の大阪大病院で)=伊東広路撮影

     暗いパソコン画面上に白色の正方形を表示して、場所を指し示すテストでも、正解率が手術前の10%から50%へと上がってきた。字が読めるまでには至っていないが、「いずれ読めるようになれば」と期待する。

     阪大チームは今月19日に2人目の患者に同様の手術を実施。今後、視力の回復効果や安全性を確かめる。3人目を終えた後、1~2年後にはさらに多くの患者を対象に治験を行い、2018年頃の実用化を目指す。

     不二門教授は「実用化までに、患者が自力で歩いたり、身の回りのことが出来たりするなど、自立した生活を送れるような人工網膜にしたい」と話す。

     ◇日本以外でも開発?

     Q 電極チップを目に植え込む人工網膜の開発は、日本以外でも行われているのか。

     A 米国やドイツが先行している。すでに治験まで進み、一定の視力回復効果が確認されている。

     Q 技術面で違いはあるのか。

     A 米国、ドイツは網膜に極めて近い場所にチップを植え込むため、網膜を傷つける恐れがある。一方、阪大のチップは、網膜の外側にある強膜に植え込むため、網膜を傷つける恐れが低い。

     Q 日本では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って人工網膜の開発を進めているが。

     A 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代・プロジェクトリーダーらが、iPS細胞から網膜の視細胞を作り、網膜色素変性症の患者に移植する臨床研究を5年後をめどに始めると発表している。すでに動物を用いた基礎研究を進めている。

     この前に、高橋リーダーらは、iPS細胞から「網膜色素上皮」と呼ばれる細胞を作り、目の難病「加齢黄斑変性」の患者に移植する手術を年内にも行う予定だ。

    2014年06月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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