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    まん丸結晶できた レーザーで偶然の産物 大阪大などのチーム

    • 酸化亜鉛の真球単結晶を電子顕微鏡で撮影した画像=芦田教授提供
      酸化亜鉛の真球単結晶を電子顕微鏡で撮影した画像=芦田教授提供

     結晶と言えば、きれいな対称性を持つ六角柱や正六面体などの形をした雪や塩の結晶を思い浮かべるだろう。こうしたイメージを覆し、大阪大などの研究チームが、まん丸の結晶「真球単結晶」を作る方法を開発した。研究者自身も「偶然の産物」という真球単結晶は、医療面などでの応用の可能性を秘めているという。(冬木晶)

     ◇5年前

    • レーザーを当て、真球単結晶を作る実験を行う芦田大阪大教授(左から2人目)ら(大阪府豊中市で)=米山要撮影
      レーザーを当て、真球単結晶を作る実験を行う芦田大阪大教授(左から2人目)ら(大阪府豊中市で)=米山要撮影

     研究チームの中心は、阪大基礎工学研究科の芦田昌明教授(50)と今春まで芦田研究室の大学院生だった岡本慎也さん(28)(現、パナソニックR&D本部所属)。

     真球単結晶の誕生は5年前にさかのぼる。

     芦田研究室は、光技術を用いて物質の新たな性質を探している。当時は、太陽電池などの電極の材料として注目されている酸化亜鉛にレーザーを照射し、ナノサイズ(1ミリの100万分の1)の微小粒子に分離することで、性質がどう変化するかが研究テーマだった。

     チームは、液体ヘリウムを使って、氷点下約270度という超低温状態にした特殊な装置の中に、直径1センチの酸化亜鉛の塊を入れ、外部から数千度の高強度レーザーを照射する方法を試みた。

    • 雪の結晶(油川英明・元北海道教育大教授提供)
      雪の結晶(油川英明・元北海道教育大教授提供)

     実験を繰り返すうち、照射してできたナノ粒子の様子を顕微鏡で観察していた岡本さんは、ナノサイズの1000倍の大きさであるマイクロ(μ)サイズの物体が数個交じっていることに気づいた。「丸いものができている。なんだろう?」

     ◇大発見

     酸化亜鉛は通常、単独の結晶としては六角柱の形状となる。このためチーム内部からは「結晶では」との発想すら出ず、当初は「小さい粒子が集まって丸く固まったものだろう」と考えていた。しかし、岡本さんは「球体の形状が何かに応用できるかもしれない」と研究を続けた。

     その後、3年間調べると、球体は、原子配列がきれいに並んだ透明な単結晶であることが判明。近代結晶学が生まれて100年となる今年は国連が定めた世界結晶年だが、通説を覆す「真球の単結晶」という大発見だった。

     詳しいメカニズムの解明はこれからだが、チームによると、高強度レーザーの熱で約2000度まで温度が上がった酸化亜鉛が溶けて液体となる。そして、液体ヘリウムで満たされた装置の中をゆっくりと落下する間、表面張力が生じて真球形状を保ったまま冷やされることで球状の単結晶が形成されるとみている。

     その後の研究で、レーザーの強度や照射間隔をうまく調整すれば、1回の実験で100個程度の真球単結晶が取り出せるようになった。

     ◇薬剤カプセル応用期待

    • 正六面体の塩の結晶(塩事業センター提供
      正六面体の塩の結晶(塩事業センター提供

     芦田教授も、「レーザーの強さや酸化亜鉛が落下する時間など、偶然に生み出された絶妙な条件の中で真球単結晶ができていた」と驚く。チームによると、酸化亜鉛だけでなく、セレン化亜鉛などすでに計5種類の物質で真球の単結晶作製に成功し、さらに物質の種類を増やす計画だ。「多くの物質で作製できる一般的な手法になり得る」としている。

     真球の単結晶は、従来材料に比べて、光を効率良く内部に閉じ込める能力が高いことがわかっている。高性能の超小型レーザーや、電子回路の代わりとなる省エネの光回路などの開発につながる可能性があるという。

     チームが特に期待しているのが医療面への応用だ。

     近年、カプセルに薬剤を封じ込め、がんなどの患部にだけ運ぶ「ドラッグデリバリーシステム」の研究が進んでいる。

     真球単結晶の表面は、原子のレベルで滑らかで、この方法を用いて人体に安全な材料でカプセルを作れば、体内で摩擦なく患部まで届けることが目指せるとしている。

     ◇世界結晶年 エックス線による結晶解析の基礎を作ったドイツの物理学者ラウエが1914年にノーベル賞を受賞したことを記念し、2012年の国連総会で制定された。国内では日本結晶学会などによる日本委員会が発足し、各地で結晶作り教室などの関連イベントが開かれている。11月2日には東京大で記念シンポジウムが開催される予定。

    2014年07月28日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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