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    津波避難体感アプリ

     津波から逃げ遅れて多くの犠牲者が出た5年前の東日本大震災を教訓に、スマートフォン(スマホ)や眼鏡型のモニター装置など最新の情報技術を使った避難訓練システムの開発が進んでいる。切迫した状況を現実のように実感させて実践的な訓練を行い、最適な避難方法を身に付けさせることを目指している。(浜中伸之)

     ◇訓練中スマホに現在地

     「津波到達まであと14分です」。堺市西区で2月28日に行われた避難訓練。看護専門学校1年木下駿斗はやとさん(19)はスマホの画面をチェックしながら、一緒に避難している車いすの高齢者らに伝えた。

    • スマートフォンのアプリで避難場所までの経路を考える参加者(2月28日、堺市西区で)
      スマートフォンのアプリで避難場所までの経路を考える参加者(2月28日、堺市西区で)

     画面の地図上では、津波の動きを示す青色の範囲が海側から徐々に広がっていく。約2キロ離れた中学校に避難する予定だったが、このままでは間に合わないと判断し、経路を変更した。

     津波到達の約6分前に、浸水想定区域外のマンション前に着くと、画面には「安全」の文字が出た。木下さんは「どういう状況にいるのか想像できたので、落ち着いて判断できた」と振り返った。

    • 津波到達までの時間や避難経路などが表示されたアプリの画面(矢守教授提供)
      津波到達までの時間や避難経路などが表示されたアプリの画面(矢守教授提供)

     スマホに映し出されていたのは、京都大防災研究所の矢守克也教授らが開発した避難訓練用のアプリ「逃げトレ」だ。

     内閣府などが公表している津波浸水想定を基に、全地球測位システム(GPS)を使って今、どこを歩いているのか、画面上に示す。津波到達の5分前になると画面が赤色に変わり「ブー」という警報音が鳴る機能もある。結果は「避難成功」「失敗」、ぎりぎりで避難できた「危機一髪」で表示する。

     集団での訓練だけでなく、個人や家族で好きな時に何度でも試し、避難方法を検証することができる。

     矢守教授は「避難行動は一つのパターンではなく、逃げ始めるまでに時間がかかるなど様々な状況を想定しなければならない。アプリはそれらの避難方法が可能かどうかを確かめるのに役立つはずです」と話す。

     現在は、南海トラフ巨大地震で被害が想定されている堺市と高知県四万十町でアプリの使用を関係者に限定して試験を実施している。今後は同地震の影響を受けるとされる太平洋側の他の地域でも、アプリを一般に公開して活用できるよう開発を進める。

     ◇想定の波CGで映す眼鏡も

     津波はめったに起きない現象なので、高さや速さを想像するのが難しい。

    • 津波避難訓練に活用する眼鏡型モニター装置。津波が押し寄せる市街地の映像が、右目部分のモニターに映し出される。背後の画面はモニターで見ている映像=伊東広路撮影
      津波避難訓練に活用する眼鏡型モニター装置。津波が押し寄せる市街地の映像が、右目部分のモニターに映し出される。背後の画面はモニターで見ている映像=伊東広路撮影

     関西大の高橋智幸教授らは、眼鏡型のモニター装置に、津波が迫るコンピューターグラフィックス(CG)が映し出されるシステムを開発中だ。

     眼鏡の片方のレンズに、縦1・5センチ、横2センチのモニターを設置。眼鏡は、背負ったバッグ内のパソコンと回線でつながれており、GPSで現在地を特定して、その地点の想定津波のCGがモニターに映し出される。

     CGを、目で見ている実際の風景に重ね合わせながら避難する。山側を見れば津波は映らないが、海側を振り返ると津波が迫ってくるリアルな状況を体感できる。津波到達までの時間がカウントダウンされ、逃げ遅れて追いつかれると警報音が鳴る機能もある。

     高橋教授は「逃げる力を体で覚える防災教育に生かしてほしい」と話し、いろいろな地域のデータを表示できるようにするなどさらに開発を進め、自治体などに活用を働きかけることにしている。

     ◇判断力向上に効果

     高橋教授の研究室でシステムの試作品を体験した。東京湾に津波が押し寄せたと想定し、1分40秒後に都心のビル街に津波が到達するよう設定されていた。機器を装着し、システムを起動させると、画面では実際の建物や道路が映し出され、そこにCGで制作した津波が遠くからゆっくり近づいて来るのが見えた。まだ大丈夫だろうと思っていたら、1分30秒を過ぎた時、津波が一気に押し寄せ、警報音が鳴り響いた。ぼうっと待ちかまえている余裕はないと痛感した。避難するタイミングや判断力を養うために効果的な装置だと思った。

    2016年03月07日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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