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    「地方大学の挑戦・3 高知大」 土地に根付き共に悩む 町の新産業をサポート

     

     「観光客向けのユズの収穫体験メニューの考案」「公開講座の開催」――。高知大地域コーディネーター(UBC)を務める特任講師、岡村健志(41)のスケジュール帳は1日7~8件の予定で埋まる時がある。仕事は地域から寄せられる要望を大学に届ける窓口役だ。

     要望の内容に応じて専門教員を派遣し、自らも解決に動く。車の運転は1日平均で100キロ。「オフィスにいるのは週1回」と笑う。そのオフィスは、大学本部のある高知市から約100キロ西の四万十市にある。

     高知大は「地域連携推進センター」を拠点に地域貢献を進めてきたが、三つのキャンパスは、県中心部の高知、南国の両市にある。

    • 地域活性化の思いを込めた缶詰を前に、生産能力の向上について社員や町職員らと意見交換する岡村さん(左から2人目。高知県黒潮町で)
      地域活性化の思いを込めた缶詰を前に、生産能力の向上について社員や町職員らと意見交換する岡村さん(左から2人目。高知県黒潮町で)

     2005年からセンター長を務める副学長の受田浩之(55)は、大学の地域貢献策が県中心部に偏っているのではないかと、考えるようになった。「周辺の地域から、大学は遠い存在と思われていないか。中心部であぐらをかいていないか」

     自らが地域に入らねば。そんな思いで14年春から始めたのが、四万十市など県内4か所に地域コーディネーター各1人とオフィスを配置する試みだ。4人で全34市町村をカバーする。地域に根付き、住民と共に悩み考える。4人はその最前線にいる。

     岡村は、四万十市を拠点に11市町村を受け持つ。その一つに、太平洋に面し、「カツオの一本釣り」で知られる黒潮町がある。

     そんな人口約1万2000人の町に東日本大震災翌年の12年春、衝撃が走った。内閣府の検討会が、南海トラフ地震で全国最大の34メートルの津波が町を襲うとの被害想定を発表したからだ。

     「町を出る」という住民も出てきた。町長の大西勝也(44)は「引き留めるには、すぐに産業をおこさないかんと思った」。

     その年の8月、岡村は大西から相談を受けた。「知恵貸してほしい」。以前の会合で顔見知りとなり、町の活性化を語り合う中で、信頼関係ができていた。

     岡村は高知大農学部卒業。民間の調査研究機関を経て、高知工科大助教となり、地域の活性化に必要な事業計画作りを専門にしていた。

     毎週のように町に通った。職員と行動を共にし、酒も酌み交わした。「地域の一員として関わりたい」と考えていた。

     苦い過去があった。

     岡村は、大西が黒潮町長に就任する前の同町に、海のライブ映像などをサーファーに提供する案を持ちかけた。しかし、財政は豊かではなく、町幹部から「そんな金ないわな」と断られた。「地域のため」と言いながら、独りよがりの案だった。何より互いの信頼関係がなかった。

     「本当に困った時、相談するのは、多くの同じ時間を過ごした親友だ」。土地に根付いて初めて仕事ができることがわかった。

     大西や岡村らが考え抜いて出した結論が「津波34メートル」の知名度を逆手に取った非常食用缶詰の製造だった。

    • 黒潮町が新たに設立した「缶詰製作所」
      黒潮町が新たに設立した「缶詰製作所」

     昨春、四万十市の地域コーディネーターに採用された岡村は、缶詰を製造する町の第3セクター「缶詰製作所」の経営指導を大西から任された。町内の主婦ら約20人が働き、カツオやシメジなど地元食材を使った缶詰6種類を1日計1000個生産する。

     しかし、この生産個数では利益が上がらず、生産量を倍に増やし、年内にも全国販売する計画を立てた。

     そうした計画作りに精通する岡村は、作業の効率化が必要だと考え、従業員に対し、「効率化へのアイデアを出してほしい」と求めた。一方で、自らも時間のかかる作業を見つけ、それを改善する機器を探すなどした。互いの努力で、生産能力が上がりつつある。

     大西は「缶詰製作は岡村君なしではできない。町が大学に求めるのは、課題の解決まで一緒に汗を流してくれる人だ」と強調する。

     人口減や高齢化といった課題には今後、都会も向き合わなくてはいけなくなる。高知県が、最初に解決策を示せれば、そのノウハウをビジネスモデルにすることも出来る。

     受田は力を込めて言う。「目指すは、課題解決先進県だ。大学はそのエンジンにならなくてはいけない」

    (敬称略)

     ◇課題解決へ 県とも連携

     高知大は四万十市のほか、高知市、安芸市、本山町にUBCを配置した。今後、土佐市、須崎市、香美市の3か所にも配置し、計7か所とする予定だ。それぞれに担当地域があり、四万十市のUBCは、6市町村からなる幡多地域に加え、現在は、高幡地域を含めた11市町村からの要望を聞いている。

     モデルとなったのは、高知県が、市町村の地域活性化などの取り組みを支援するため、同じ7か所で設置している「産業振興推進地域本部」。UBCは、同本部に配置されている副部長クラスをトップとした県職員とも連携し、地域の課題解決に当たる。

    2015年07月22日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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