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    住民の技術生かさにゃ損

    アプリ開発で課題解決

    • 阿波おどりの情報をスマートフォンなどで確認できるアプリを開発した坂東勇気さん(中央左)と野田由香さん(同右)らCf徳島のメンバー。「自分たちの手で地域を元気にしたい」(12日、徳島市で)
      阿波おどりの情報をスマートフォンなどで確認できるアプリを開発した坂東勇気さん(中央左)と野田由香さん(同右)らCf徳島のメンバー。「自分たちの手で地域を元気にしたい」(12日、徳島市で)

     8月12日、徳島の街は1年で最も盛り上がる阿波おどりを迎えた。喧騒けんそうの中、坂東勇気(36)はスマートフォンを見やり、「出てる、出てる」と表情を崩して仲間と目を合わせた。

     画面の地図に表示されたのは、その場所にいる「れん」と呼ばれる踊り手グループの名前。会場に設置したセンサーを使った利用無料のアプリは成功のようだ。

     阿波おどりの4日間、多くの連が街を練る。目当ての連がどこにいるのかわかれば、観光客はもっと楽しめる。そんな考えで、坂東が代表を務める住民グループ「コード・フォー・トクシマ(Cf徳島)」が開発した。「地方にいる技術者だからこそ、できることがある」と坂東は言う。

     徳島県出身の坂東は東京のIT企業にいた。仕事に追われ、初産を控えた同郷の妻(36)を支えてやれないことに悩み、2011年にUターンした。地元のIT企業に職を得て家庭は安定したが、優秀な技術者は東京のように多くはなく、物足りなさが募った。

     転機は13年夏だった。美波町で「たからのやま」を起業した奥田浩美(51)が、多くの技術者を輩出してきた東京の開発イベントを徳島に引っ張ってきた。

     「徳島で人は集まらない」。奥田はそう周囲から言われながらも、東京から講師や企業を呼ぶ催しを10回以上重ねた。「人がつながれば何かが生まれる」との確信があったからだ。

     そこに参加した坂東は、子育て中の母親や障害者たちと席を並べるたび、どうすれば住みよい街になるかを話し合った。そして今年1月、「ITで地域課題を解決」を合言葉に、5人でCf徳島を発足させた。

     活動に確実な収入源はない。でも、自分たちの技術で地域に役立ちたい――。

     第1弾として2月、子育てを助けるアプリのアイデアを出し合うイベントを開くと、「産後の再就職先や保育所探しを助けて」「小児科を検索でき、流行の病気も教えてくれたら便利」など、山のように案が出て大いに盛り上がった。

     企画したのは、2児の母で、ITを使った母親の在宅勤務を支援するNPO法人も主宰する野田由香(39)。「地方だから、子育て中だからと仕事を諦める人をなくしたい」と言う。

     徳島市のタクシー会社「吉野川タクシー」を祖父から引き継いだ近藤洋祐(30)は7月、塾を終えた生徒を事前登録して相乗りで家に送るアプリを坂東とともに開発した。「徳島は公共交通が十分ではない。ITで効率化、低価格化が実現し、介護施設に通う高齢者への応用など可能性は大きい」と近藤は話す。

     Cf徳島だけではない。美波町のIT企業「サイファー・テック」が毎夏行うインターン研修には、東京や大阪の大学生も参加し、住民の困りごとを聞いてアプリを開発している。

     2年前に鳥取大生だった室賀ゆり子(23)は今春、美波に移住し、地域活性化を進める「あわえ」に入社した。家庭で埋もれている地域の古い写真を集め、ネット上で未来に残すプロジェクトに取り組んでいる。

     そんな若い挑戦者たちの思いを、行政が後押しする。徳島県は4月、公共情報を電子データで公開する専用サイトを設けた。現在、公開データは500以上。すでに、IT技術者や住民らの手で、道路の規制状況を地図上に表示するアプリなど60以上が開発された。

     山積する課題すべてをITで解決できるわけではない。ただ、少しでも不便さを解消すれば、住みよい地域に変えていける。

     「地域を救うのは外にいる人ではなく、そこで生きる人。人材は地方の宝です」と奥田。今ではメンバーが20人に増えたCf徳島を率いる坂東も、同じ思いを抱いている。

     「人とのつながりの中で課題が浮かび上がり、それを解決するアイデアが生まれる。課題が多い地方はIT技術者にとって最高の場所です。自分たちで地域を変えていく、その手応えと自信がある」(敬称略、「ITで変える」おわり)

     文・関俊一、河津佑哉

     写真・笹井利恵子、米山要、浜井孝幸

    情報公開で後押し/

     ITエンジニアらが、その技術で地域の課題を解決する「シビック・テック(市民の技術)」と呼ばれる運動が広がっている。プログラミングを意味する「コード・フォー(Code for)」を冠する住民グループは全国に50以上あり、四国では愛媛県の「コード・フォー・ドウゴ」も1月に活動を始めた。

     開発されるアプリは、子育てや防災、防犯など多岐にわたり、国も「公共サービスの向上、新事業の創出が期待できる」と評価。開発に役立つよう、行政の保有情報をパソコンなどで取り込みやすい形式で公開する「オープンデータ」の取り組みを推進し、2月には自治体向けに公開のための指針を発表した。内閣官房によると、公開している自治体は約150に上る。

     「ふるさと あしたへ」は、人口減と高齢化が全国より早く進む四国を舞台に、地域再生の道筋を探る長期企画です。ご意見・ご感想を、「社会部に情報を」の連絡先へメールかファクスでお寄せください。

    2015年08月31日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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