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    人工光合成 「環境保全の切り札」 究極のエネルギー目指す

     光を利用した究極のクリーンエネルギーと言われる人工光合成の研究が、世界各地で進んでいる。植物の光合成を、文字通り人工的に行う試みだ。この技術が実現すれば地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)を大気中から大幅に減らすこともできる。次世代に地球環境を残す切り札とされるこの研究で、日本は世界のリーダーとして貢献している。

     ◇将来への投資

    • 光を当てて水分解する実験を行う阿部教授。「未知の世界に挑み、新しい材料を見つけたい」という(京都市西京区で)=宇那木健一撮影
      光を当てて水分解する実験を行う阿部教授。「未知の世界に挑み、新しい材料を見つけたい」という(京都市西京区で)=宇那木健一撮影

     「今こそ我々の知識を共有しましょう」。2014年11月下旬、兵庫県淡路市で開かれた人工光合成の国際会議(ICARP)。議長の井上晴夫・首都大学東京特任教授は開会式で、18か国から集まった約300人の研究者に英語で呼びかけた。

     人工光合成は太陽光を浴びて水とCO2を養分に変える植物の光合成の一部を模した化学反応だ。現在はエネルギー源になる水素や化石燃料の代替となりうるメタノールなどを作る研究が進んでいる。

     5日間の会議では、太陽電池を利用した手法で、水素を作り出す効率が、実用化のめどとされる10%を超えたという米グループの成果などが発表された。

     約20年前から人工光合成の研究に取り組むスウェーデン・ウプサラ大のレイフ・ハマーストロム教授は「ここ5年ほどで資金提供が増えた。研究者の数も急増し、発展がめざましい」と喜ぶ。

     企業も本格的に参入し始めた。東芝は太陽電池などを使い、CO2から一酸化炭素を作ったとする成果を国際会議でポスター発表し、注目を集めた。同社の小野昭彦・主任研究員は「この分野は将来への先行投資」と話す。

     ◇半世紀前

     人工光合成の研究は約半世紀前の1967年、日本でスタートした。

     当時、東京大大学院生だった藤嶋昭・東京理科大学長が、酸化チタンと白金を電極にした装置を水の中に入れて、光を当てた。すると、酸化チタンから酸素の気泡が、白金から水素の気泡が立ち上った。光によって水が分解されることを初めて示した実験で、「※光触媒」反応といわれる現象の発見だった。

     指導教官だった本多健一・助教授(当時、故人)の名前を合わせ、「ホンダ・フジシマ効果」と名付けられた。

     太陽光を当て、水からエネルギーを取り出す。発展が期待された研究だったが、いくつもの高いハードルがそびえ立った。

     その一つが可視光を利用する難しさだ。

     ホンダ・フジシマ効果で酸化チタンが吸収するのは紫外線で、太陽光全体の約3%に過ぎない。5割以上を占める可視光なら、より多くのエネルギーを生み出すことができるが、可視光は紫外線に比べて光そのもののエネルギーは弱く、水分解などの反応を起こすのが困難だった。

     こうした技術的な課題でいくつか解決策が出てきた。その一つが、阿部竜・京都大教授が二つの光触媒を組み合わせ、可視光によって水を分解させることに成功した研究だ。植物が2段階で光を吸収し、エネルギーを高めていることから着想したという。

     水分解の仕組みについては、大阪市立大などのグループが、植物で水から酸素を発生させている物質の詳しい構造を解明し、今後の進展が期待されている。

    •  人工光合成では、水を水素と酸素に分解して水素エネルギーを得る反応と、水を酸化して酸素を生成する一方、二酸化炭素を還元して一酸化炭素やメタノールなどに資源化するという反応が主に研究されている。
       人工光合成では、水を水素と酸素に分解して水素エネルギーを得る反応と、水を酸化して酸素を生成する一方、二酸化炭素を還元して一酸化炭素やメタノールなどに資源化するという反応が主に研究されている。

     ただ、光触媒では、光のエネルギーに対し、作られるエネルギーの割合(太陽光エネルギー変換効率)は、0・1~1%程度で実用化にはまだまだ遠い。

     阿部教授は「人類は、植物が何億年もかけて作った化石資源を食いつぶそうとしている。険しい道のりだが、光を使ってエネルギーを作るのは我々の使命だ」と訴える。

     ※光触媒 光を受けて化学反応を起こす物質。通常の熱反応などでは困難な水分解なども、光のエネルギーが利用されることで可能になる。触媒として、人工光合成では半導体や有機金属錯体が研究されている。

     ◇日本の研究トップレベル

     ICARPの名誉議長を務め、昨年11月の会議に出席したノーベル化学賞受賞者の根岸英一・米パデュー大特別教授に人工光合成研究の意義を聞いた。

    • 「人工光合成の研究は、日本が先頭に立って進めるべきだ」と話す根岸氏(2014年11月、兵庫県淡路市で)
      「人工光合成の研究は、日本が先頭に立って進めるべきだ」と話す根岸氏(2014年11月、兵庫県淡路市で)

     「CO2は、もろもろの有機物のもとだ。悪者扱いするのではなく、燃料にするという人工光合成の研究はこれからますます重要になる。ただ、光のエネルギーを、人工的な仕組みを通して、使えるエネルギーに変えるというのは非常に複雑な反応で、実用化される仕組みは多様になるだろう。研究者にとっては、そこが面白いところでもある。日本は触媒研究で伝統と蓄積があり、世界的にもトップレベルにいることは間違いない。かつては夢のような技術が、今では現実になりつつあり、驚くような成果もどんどん出ている。近い将来、この分野からノーベル賞受賞者が出ることを期待したい」

     (おわり。この連載は、米井吾一、新井清美、冬木晶が担当しました)

    2015年02月16日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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