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    母の孤独に目を向けて/子供の寝顔に「ごめん」

    • 緒方貴臣さん=稲垣政則撮影
      緒方貴臣さん=稲垣政則撮影
    • 島田妙子さん=枡田直也撮影
      島田妙子さん=枡田直也撮影

     児童虐待をなくし、子供を救うために、親や周囲はどうすればいいのか。当事者や識者に提言を聞く。

     ◇映画監督/緒方 貴臣さん 34

     ◇2010年に大阪市西区のマンションで3歳女児と1歳男児が餓死した事件をモデルに、映画「子宮に沈める」(13年)を制作。児童虐待防止全国ネットワークの推薦作品に選ばれた。

     シングルマザーの母親が、幼い2人の子供を餓死させた大阪の事件をニュースで知った時、「なんて母親だ」と憤りを覚えました。ところが、母親のネット上の日記には、子供の成長を喜ぶ書き込みがあったんです。何が母親を追いつめたのか――。考えるうち、この母親に、僕の妹を重ねていました。

     妹も10代で離婚し、子供を連れて福岡の実家に戻りました。わが子を親に預けて出かける妹を、僕は「甘えている」と非難しました。もしかしたら、僕の中にもあるような「母親への過度な期待」が、あの母親を追いつめたのではないか。そう考え、映画制作を決意しました。

     10~50代の子育て経験がある女性約20人に取材しました。驚いたのは、多くが「子供がいなくなればいい」と思ったことがあり、「子供の首に手をかけた」という人もいたこと。虐待は身近に起こりうると実感しました。

     この映画にはヒーローは登場しません。誰も助けてくれない。母の孤立を強調したかったのです。僕の妹には援助してくれる親がいましたが、事件の母親にはいませんでしたから。どうすべきだったかという答えも提示していません。ただ「母親が悪い」と決めつけるのではなく、想像力を働かせるきっかけにしてほしかったのです。

     映画を作って、母親への考えが本当に変わりましたね。初めて妹の子2人を連れ、ベビーカーを押して出かけたんです。電車で初老の男性に「邪魔だ」と言われました。ベビーカーを折りたためということでしょう。でも小さな子が2人もいれば無理ですよ。そんな厳しい視線が母親を家に閉じ込めるのでしょうね。

     お母さんのイライラは子供に向かいがちです。子供を守るには、まずお母さんを守ることから。一人ひとりがそう考えを改めることから、社会は変わっていくのではないでしょうか。

    (聞き手・喜多俊介)

     ◇兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー 島田 妙子さん 43

     ◇大阪府在住。2011年から全国の講演会で、小中学生時代に受けた虐待経験を語り、育児アドバイスをしている。13年度から兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー。

     小学2年の頃から、継母と父から虐待を受けていました。酔った父に包丁を持って追いかけられ、髪をつかまれて頭を湯船に沈められたこともあります。「いつ殴られるか」と張り詰めた毎日でした。

     元は優しい父だったんですよ。お風呂で父の背中を洗うのを2人の兄と争っていましたから。殴られながら、「今はおかしくなってるだけや。いつか優しいお父ちゃんが戻ってくる」と言い聞かせ、耐えていました。

     人生を変えたのは、中学2年の時、担任だった若い女性の先生の一言です。あざに気付き「守ってあげるから」と言ってくれた。両親に「次にやったら警察に通報します」と警告してくれた。頼もしかったですね。大人には不信感しかなかったけど、信じてみようと思った。先生に助けを求めて施設に保護され、地獄の日々は終わりました。

     でも、親もまた、地獄に生きているのです。父はその後、自殺を図り、「俺は生きとったらあかん人間や。お前たちに悪いことをした」と後悔しながら亡くなりました。継母も「(虐待が)心に残って、何を頑張ってもあかん」と苦悩し続けていました。22歳の若さで子育てを任され、心が病んでいたのでしょう。

     誰でも歯車が狂えば、鬼になり得る。私も3人の子の親になり、自分の中に鬼を見ました。義父母の介護が重なっていた9年前、発達障害のある長男がパニックになり、口を手で塞いでしまったのです。はっとして、長男を抱きしめ、涙ながらに謝りました。

     怒ることは正常な感情です。謝るタイミングを逃したら、子供の寝顔に「ごめんね」と、自分のために謝ってください。心が温まり、あしたからまた頑張る力がわいてきますよ。

     周りの人は、孤独なお母さんに声をかけてほしい。「夜泣きが大変で……」と聞けば、思いやりの気持ちが生まれるはずです。友達になってあげることが、一番の救いになるのです。(聞き手・宮原洋)

    2015年12月27日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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