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    非正規 懸命に生きる

    • ミナ子さん(中央)、聖子さん(右)と森川で、桜を見上げた(3日、大阪市北区で)=前田尚紀撮影
      ミナ子さん(中央)、聖子さん(右)と森川で、桜を見上げた(3日、大阪市北区で)=前田尚紀撮影

     健康、お金・・・「綱わたり」

     

     「非正規雇用の女性」と聞くと、まずパートで働く既婚女性をイメージすることが多い。だが、今は独身女性も少なくない。ひとくくりにできない、経緯と思いがある。(編集委員 森川暁子)

     

     大阪市に住むミナ子さん(54)(仮名)は、認知症の母(83)と、犬と一緒に暮らしている。母がデイサービスを利用する日に合わせ、週3回経理事務の仕事に出る。

     介護がいつも身近にあった。短大卒業のころ、祖母が認知症になった。十分な知識がないまま、母と世話をした。仕事は、身内の事務所を手伝ったり、ウィンドウズ95が出始めたころに勉強してヘルプデスクをしたり。

     母が、しゅうとめである祖母との関係に苦労したせいか、ミナ子さん自身に結婚願望が乏しく、見合いの話もあったが結婚に至らなかった。

     父が亡くなり、母が認知症の診断を受けたのが5年前。介護には、祖母のときの経験が生きた。だが、仕事を休む日が増え、長く勤めたかった当時の派遣先を雇い止めになったのはショックだった。

     近所の人に「おばあちゃんがスーパーで買い物しようとしてたから、千円貸しといたよ」と助けてもらえるのは、生まれ育った町に住むからこそ。それでも、雪の日に転んで自分がけがをしたときは、「母の世話は? 仕事は? どうしよう、犬もいるのに……」と気が動転した。「こんなに恵まれた環境だけれど、ひとつつまずいただけで破綻してしまう。綱わたりみたいな生活なんだ」と身にしみた。

     お金のことは心配だ。「でも、100点を望まなければいい。着地したところが私の着地点」と考えている。「認知症の人と家族が暮らしやすい世の中になるように、情報を共有しあいたい」。それが今の願いだ。

     

     努力したら報われる社会に 

     

     兵庫県に住む聖子さん(42)(仮名)も、「普通の」ライフコースは歩いてこなかった。高校で不登校になり、中退。その後は障害者や不登校の関係の団体で働いた。社会から排除される人が出ることが不公平だと憤り、社会を変える力になりたかった。

     アルバイトでためたお金と奨学金で大学に入り、卒業したときは30歳を過ぎていた。今は福祉系の団体で相談員をしている。失業や借金、障害など、複雑な課題を抱える人たちと、解決策を探る。

     やりがいがあり、戦力としてあてにされている。ただ、奨学金の返済も抱え、手取り月収16万円では先々が不安だ。正社員登用制度ができたが、「受験資格は40歳まで」と。「チャンスがあれば、正社員にチャレンジしたい。努力をしたら、報われる社会であってほしい」

     無我夢中で生きてきて、結婚は考えなかった。でも、聖子さんも数年前、足をけがして働けなくなったとき、仕事どころか買い物にも困る現実に気が付いた。今は、独身の姉と2人暮らしだ。

     

     悩み「仕事」「老後」8割超

     35~54歳にネット調査

     

     大阪市男女共同参画のまち創生協会、横浜市男女共同参画推進協会などが昨年、35~54歳の非正規職シングル女性を対象にしたインターネット調査(有効回答261人)を行った。回答者の収入は、「150万~250万円未満」が39・8%で最も多く、150万円未満も28・4%いた。

     生活全般の悩み(複数回答)は、「仕事」「老後の生活」が8割を超え、「健康」が6割。主な相談先(同)は「友人」が54・4%で最も多かったが、「相談相手はいない」人も25・7%いた。

     今望むこと、めざしたいこと(同)は、「収入を増やしたい」が72%で最多。「正社員になりたい」が37・2%で続き、「結婚したい」は23%で第3位だった。

     

     *弱者に向き合う温かく切実な視線

     

     少しレイアウトも変わり、当欄も新年度スタートです。本日は非正規職の独身女性の声をご紹介しました。

     独身者が増え、労働者に占める非正規雇用の割合も増え、以前はあまり想定されていなかったシングル女性や男性の非正規職が目立つようになりました。非正規である事情はそれぞれですが、自ら働き方を変えようとしてもままならないのはつらい話です。

     同時に、今回出会ったおふたりと話して、単に「非力で不遇な人」というわけではないことにも気付きます。自身のこともさることながら、生活苦の人、介護が必要な人など、弱者がどうしたら生きやすいかを真剣に考えている。自分が難儀すればこその、切実で温かい視線を感じます。

     男女雇用機会均等法施行から今月で30年。働く環境には課題が山盛りで、振り返れば成功よりため息の方が多いかもしれません。それでも、なんだかんだと女性は鍛えられてきたんだよね、という感慨もわきました。

     とはいえ、「ひとり」の生活はリスクが高い。そんな現実も見つめつつ、多様なつながり方、暮らし方を探してまいります。ご意見、ご感想をお待ちしております。(森川暁子)

     

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    2016年04月14日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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