文字サイズ

    おひとりさま出産 私の道

    • 娘と手をつないで歩く七尾さん。「子どもを幸せにしたいという気持ちは、既婚でも未婚でも同じだと思う」(東京都千代田区で)=池谷美帆撮影
      娘と手をつないで歩く七尾さん。「子どもを幸せにしたいという気持ちは、既婚でも未婚でも同じだと思う」(東京都千代田区で)=池谷美帆撮影

    「夫は不要」 実体験を漫画に

     

     恋人はいても、結婚は考えない。気付けば38歳。母親としてわが子を抱きたい、という思いが募る。大阪出身の七尾ゆずさん(44)の漫画「おひとりさま出産」は、あえてシングルマザーの道を選んだ自らの出産・育児体験をありのままに描き、話題を呼んでいる。(浦西啓介)

     

    • 「おひとりさま出産」の一場面((c)七尾ゆず、集英社クリエイティブ)
      「おひとりさま出産」の一場面((c)七尾ゆず、集英社クリエイティブ)

    「出産のタイムリミット」が気になる

     

     主人公・ナナオは漫画を描くことに命を注いできたが、本業の依頼は減る一方で、アルバイトで生活費を稼いでいる。アラフォーとなり、出産のタイムリミットを意識し始めるが、恋人は借金を抱え、生活力はゼロ。「この人の子を産みたい。でも、苦労しか待ち受けてないような結婚はあり得ない」。婚姻届を出さずに子どもが欲しいと協力を持ちかけ、40歳を前に無事女の子を出産。ミライと名付け、母子2人の生活を始める。

     4年前から月刊誌「オフィスユー」(集英社クリエイティブ)で連載を開始。単行本化もされ、すでに4巻を数える。漫画のエピソードは「すべて実話」だ。

     ひとりでの出産で乗り越えねばならないハードルは多いが、その一つが世間体。妊娠を知らせた母親からは猛反対を受け、「産むんやったらあんたの好きにし」と遠回しに里帰り出産を拒否される。ナナオは叫ぶ。「世間が何言おうと、私の幸せのカタチやねん」

     「人生に追いつめられたアラフォーが、幸せになりたいと必死で生きる姿を見て、皆さんに笑ってもらえたら」と七尾さんはいう。

     

     七尾さんはプロを目指して26歳で上京し、七尾ゆずというペンネームで活動。現在は東京郊外で4歳になった娘と暮らす。初対面でも人懐っこい笑顔ですぐに打ち解ける活発な女の子だ。そんな娘の様子を見ながら、「父親に似たのかな。内気な私とは正反対」と笑う。

     なぜ、ひとりで産むことを選んだのか。改めて自己分析してもらった。

     「結婚に対する執着が元々なかったんです」。父親は仕事と遊びにかまけて、家庭を顧みる人ではなかった。愚痴をこぼす母を見つめ、「結婚が幸せだと信じられなくなっていった」

     それでも子どもを産みたいと思うようになったきっかけは、東日本大震災だった。アパートの自室で独り震えたあの日、気付いた。「誰からも愛されず、自分すら愛せない。そんなままで死にたくないと思ったんです」

     娘の父親には認知も養育費も求めないから、家計のやりくりは大変だ。出産当初は育児のためアルバイトを控えたこともあり、児童扶養手当など各種手当と漫画の原稿料で1か月の収入は10万円超。女友達から子どものお下がりをもらい、夜は照明を落とすなどしてしのいだ。ただ、「私には夫は必要なくても、子どもには父親が必要になる場面もあるので、彼とは一応つながっている」という。

     

    家族の形で、幸せは決まらない

     

     未婚での出産への批判はあるだろうと覚悟していた。事実、連載開始後に「自分の幸せのため、なんて、無責任」という声が届いた。七尾さんは「娘のためなら、どんな苦労もつらいとは思わない。初めて人を愛することがわかった気がする」と語る。

     「育児編」に入り、同じシングルマザーから「励まされる」という感想が寄せられる。「『孫とミライちゃんをダブらせてほほ笑ましく読んでいます』というのもあって、未婚の母に否定的と思われる世代にも、わかってもらえたのかな」

     単行本は7月に続刊が予定されている。最近ようやく筆一本で暮らせるようになった。

     「家族の形だけで幸か不幸か決まるわけではない。娘を笑顔にできるんだと伝え、私のようにおひとりさまの母親が、一歩前へと進めるきっかけになれば」と願う。

     

    • 七尾さんが描いた娘のイラスト
      七尾さんが描いた娘のイラスト

    選択的シングルマザー 女性の自立進み話題に

     

     自らの意思で結婚せずに出産し、ひとりで子どもを育てると決断したケースは「選択的シングルマザー」と呼ばれる。精子バンクによる精子の提供が進んでいる米国などに比べ、日本では、国の調査などでも「母子世帯」と離婚者などとひとくくりにされ、認知度も低い。

     選択的シングルマザーの交流、研究を図る「女性と子育て研究所」代表で、自身も選択的シングルマザーの高田真里さん(47)は「女性の社会進出と自立が進み、生き方の一つと考える女性は多いのではないか」と指摘する。

     一方で、「子どもの一生をひとりで背負うのだから、精神的、経済的に自立していることが条件で、安易に決断するのはいけない。収入が少なくても、『何があってもこの子を守る』と腹をくくる覚悟で、妊娠、出産をしてほしい」と呼びかける。

     

    子どもの人権 配慮大切

     

     「結婚は別にいいけど、子どもは産んどいた方がいいよ」。30歳を過ぎた頃だったか、母親にそんなことを言われました。「私を産んだことを肯定してくれているのかな」と何となくうれしく思い、自分の生き方を見つめ直すには至りませんでした。

     七尾さんが言うように、選択的シングルマザーという生き方には様々な観点から批判も少なくないようです。生まれてくる子どもの人権を侵害しないような配慮は大切。子どもが出自を知る権利に関しても考えておかなくてはなりません。

     ただ、自分の人生を設計する上で、選択肢の一つとして頭に入れておいても良かったかも、と思います。みなさんはどのような感想をお持ちになりましたか?(中舘聡子)

     

    ◆お便りはこちら 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社生活教育部「シングルスタイル」係、ファクス06・6365・7521、メールはsingle@yomiuri.com

    2017年03月10日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
    リンク