文字サイズ

    脱「ひきこもり」 女子会一役

    • 「ひきこもりUX会議」のメンバーらと女子会の打ち合わせをする林さん(中央)(東京都渋谷区で)=松田賢一撮影
      「ひきこもりUX会議」のメンバーらと女子会の打ち合わせをする林さん(中央)(東京都渋谷区で)=松田賢一撮影

    胸の思い吐露 仲間と出会い

     

     学校や仕事に行かず、自宅に閉じこもるなどして孤立する「ひきこもり」は、全国に54万人いるとされる。男性に多いといわれるが、女性の場合、「家事手伝い」などと見なされて問題視されず、数字に表れないという面がある。一人で悩む女性のための交流会が各地で開かれている。(浦西啓介)

     

     大阪府豊中市が1月下旬に開いた「ひきこもりUX女子会」。ひきこもりや生きづらさを抱える10~50代の女性30人以上と家族、支援者らが集まった。

     「自分はこのまま生きていていいのか、考えてしまう」「アルバイトをし始めたが、休憩時間に何を話していいか分からず、つらい」。2時間半にわたり、胸の奥にしまっていた思いを吐露した。参加者の一人(41)は「私と同じように世間話が苦手な人が多く、必要以上に気を使わず安心していられる」と笑顔を見せた。

     会の運営を担当したのは、ひきこもりを経験した人らで作る一般社団法人「ひきこもりUX会議」。男性への苦手意識を持つ人も多いことから、2016年に女性に限定した交流会を開始。これまでに計40回開催し、延べ1540人が参加した。多くは無業の独身者だが、主婦も3割近くいる。

     「ひきこもりというと、自室に閉じこもっているイメージが強い。でも、家庭内では自由に行動できたり、少しなら外出できたりする人もいる。状態や原因は千差万別なんです」。代表理事の林恭子さん(51)(横浜市)はそう言って、女子会の参加者らを温かく見守った。

     

    生きづらさから自室にこもる

     

     林さんも元当事者だ。27歳から2年間、東京都内の自宅にひきこもっていた。

     大学を約1か月で中退。「大学に行かないなら、働きなさい」と母親に叱責され、伝票整理などの短期アルバイトを繰り返していた。ある日、出勤しようと靴を履いた直後、動けなくなった。洗顔や歯磨きといった当たり前のことすらできないほど気力を失い、10日ほど風呂に入らないことも。自分の身がそがれる気がし、「人生にどん底があるなら、あの時期がそうだった」。

     原因は、しつけに厳しい母親の抑圧だった。学校のテストで98点でも間違えた理由を問うほど完璧を求める母の期待に、3姉妹の長女として応えようとした。学校の理不尽な管理教育への違和感も加わり、高校時代には不登校になった。

     生きづらさから自室に一人こもり、そのうち、「人に迷惑をかけず、痛くない死に方を選ぼう」と考えるようになった。精神科医に打ち明けると、「やってみたらいい。でも、生きたいと願っているはずの本来のあなたがいなくなるのは残念だ」。その言葉を胸に刻んで数か月間過ごしたある日、「自分の爪先が、生きるためにもう一度踏み出そうとしているように感じられた」という。

     それからは「コップに1滴ずつ水をためるような気持ち」で、少しずつ社会復帰への力を蓄えていった。アルバイトを再開、ひきこもりの当事者や親の集会に参加して運営を手伝うように――。実家を離れ一人暮らしを始めて3年たった05年、元当事者の男性と39歳で結婚した。

     「ひきこもりは若者の問題と思われがちだが、中年になっても悩んでいる人は多い。支援は就労に関するものが多いけれど、私たちはその前の段階、一歩でも家の外に出る助けになりたい」と林さんはいう。

     

    終了後も、つながる

     

     女子会の参加者同士がメールアドレスなどを交換し合い、カフェや遊園地に一緒に行く関係になることもあるという。豊中市の会でも終了後、近くの喫茶店に参加者らが会話を弾ませる姿があった。兵庫県在住の女性(25)は、小学校5年生の時にクラスの女子グループに溶け込めず不登校になった。通信制高校を卒業後、今は「社会に慣れる方法を知りたい」と、通信制の大学で社会学を学ぶ。「外で誰かとお茶を楽しむなんて久しぶり」と喜んだ。

     そんな様子を見つけ、林さんは目を細めた。「私自身、ひきこもった間に失ったものは多かった。でも、不器用でも自分がこう生きていきたいと思ったことを守っていこうと決意でき、魅力的な仲間たちと出会えた。同じ悩みを抱えている人も、決して一人ではないと知り、少しでも希望を持って歩めるようになることを願っています」

     

     

    長期化、高齢化深刻に

     

     内閣府は「ひきこもり」について、▽自室から出ない▽近所のコンビニなどには出かける▽趣味の用事の時だけ外出する――といった状態が半年以上続いている15~39歳と定義する。ただ、ひきこもりの長期化と高齢化が深刻な問題となっており、新年度に40~59歳を対象にした初の実態調査を行うことを決めた。

     NPO法人・KHJ全国ひきこもり家族会連合会(東京)の2016年度の調査によると、当事者本人の平均年齢は33.5歳と、10年間で4歳近く上昇。40歳以上は2割強を占め、ひきこもり期間も約8年から10年以上へと延びていた。同会は「就労は行政、その後のサポートは民間で、といったように官民が連携し、長期的に支援していく態勢が求められる」としている。

     

     

    4月、装い一新します

     

     人と接するのはしんどくもあり、楽しくもあり。ひきこもりの人が多いのは、しんどさが勝る社会だからでしょうか。それでも、人から受ける刺激は人生の彩りには欠かせません。

     2015年4月に始まった当欄は、ひとりの自由さや孤独感を抱えながら、しなやかに暮らすシングルの生き方をつづってきました。そしてこの春、一つの転機を迎えます。これまで近畿地方に配られる大阪本社の夕刊で掲載していましたが、4月から全国共通の夕刊企画として、装いも新たに生まれ変わります。

     「シングルスタイル」というタイトルはそのままで、毎月第1、3週(月によっては第5週も)の土曜日に掲載します。初回は4月7日。引き続き、ご愛読をよろしくお願いいたします。(中舘聡子)

     

    お便りはこちら 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社生活教育部「シングルスタイル」係、ファクス06・6365・7521、メールはsingle@yomiuri.com

    2018年03月08日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
    リンク