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    {探る} 「歩き方の個性映像解析」 足の運びや腕の振り 人それぞれ

     人が歩く姿の映像から、“歩き方の個性”を突き止める「歩行映像解析」の研究を、大阪大産業科学研究所(大阪府茨木市)が進めている。防犯カメラに映った人の歩き方を詳しく解析して容疑者特定の手がかりにするといった、犯罪捜査での試験運用も始まるなど、注目の最新技術だ。研究室を訪ね、システムを体験した。(竹内芳朗)

     記者は「歩くのが速い」と周囲から指摘されることが多いが、「歩き方の個性を簡単に見分けられるのか」というのが正直な感想だった。

     同研究所の八木康史教授(大阪大副学長)の研究室には、トレーニングジムでよく見かけるランニングマシンに似た装置がある。回転するベルトコンベヤーの上を歩き、周囲に設置されたカメラで撮影、歩き方を分析するという。

     ベルトは時速20キロ以上出るが、転倒防止などのため、大人がややゆっくり歩く速度の時速4キロに合わせた。数分歩き、撮影は終了。分析結果は、カメラと接続したパソコン画面上ですぐに出た。

     歩き方に関する8項目の結果が出た。「足の運びと腕の振りの左右対称性」は「高め」だが、「前後の腕の振り幅」は「小さめ」といった個性があると分かった。歩行速度は「平均的」と出たが、これはベルトに合わせて歩いたからだ。

     なぜこうした「個性」が分かるのか。今回の体験では、歩く姿の映像をシルエット状に加工して、腕の振り幅や歩幅、姿勢など歩き方の特徴を抽出し、数値化するソフトを使った。八木教授らが数年前に開発、老若男女約4000人分の特徴を数値化したデータが内蔵されている。

     このソフトで、記者の歩く姿をとらえた映像をシルエット状の画像75コマに加工。この画像から特徴を数値化し、内蔵データと照らし合わせて、標準的な歩き方とどれくらい違うかを解析した。その結果、歩き方からの記者の推定年齢は22歳だった。実年齢は41歳なので、年齢よりは若い歩き方らしい。数分歩いたが、解析を担当した槙原靖准教授によると、「2歩分の映像で十分だ」と言う。

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     この分野の研究で、特に応用が期待されるのは犯罪捜査だ。八木教授らは、記者が体験したシステムと同じ原理を利用し、人が歩く姿を映した異なる2種類の映像で歩き方を比べ、同一人物の可能性を算出するソフトを、2008年頃に開発した。

     このソフトで、顔が不鮮明な犯人をとらえた防犯カメラの映像と、警察が特定した容疑者の映像の歩き方を解析して一致度を調べ、事件解決につなげるといった活用を想定している。

     08年に奈良県で起きた放火未遂事件では、警察の依頼に応じて防犯カメラに映った犯人の歩き方を分析。容疑者の男の歩き方と比べて、「同一人物の確率90%以上」と判定、逮捕へつながったという。

     13年からは警察庁の科学警察研究所で試験運用を開始。14年の警察白書では「新しい個人識別法」として取り上げられた。八木教授は「将来的には、歩き方から、その人の健康度を判定するなど、医療分野でも活用できるようにしたい」と話す。

     歩き方の個性を突き止めるユニークな技術が、社会の安全や健康な暮らしにつながるよう、発展を期待したい。

     ◇防犯カメラ検挙のカギ

     警察庁によると、今年1~6月に全国の警察が検挙した刑法犯10万8492件のうち、防犯カメラなどの映像が決め手となったのは、全体の5.3%にあたる5799件に上った。強盗やひったくり、スリ、強制わいせつで、検挙につながる事例が多かったという。

     こうした集計は初めてで、過去との比較はできないが、防犯カメラの設置台数は年々増え、性能も大幅に上がっているため、検挙につながる事例が増えていると考えられている。一方で、不正確な映像解析による誤認逮捕も起きている。歩き方の解析による犯罪捜査でも、適切な運用と精度のさらなる向上が求められる。

    2016年09月09日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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