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    {知る} 命守る準備行動に移せ 家具固定など学者ら呼びかけ

     阪神大震災から22年がたった。大震災は、大きな揺れで転倒し、命を脅かすこともある家具の固定や、ライフライン(生活物資補給路)の寸断を想定した食料の備蓄など一人一人で身を守る「自助」が最も重要という教訓を残した。しかし、そうした備えの大切さを意識していても、具体的な対策を取っている家庭は少ない。「犠牲者を1人でも減らしたい」と、地震学者たちの自助を促す取り組みが続いている。(米井吾一)

     南海トラフ地震で最大31メートルの津波による被害が想定される高知県四万十町の興津地区では、京都大防災研究所の矢守克也教授(災害心理学)や大学院生の野嶋太加志さん(25)らのチームが2015年から、地域ぐるみで家具固定を普及する取り組みを進める。

    • 住民(左)に家具の固定を呼びかける中学生(中央)ら(高知県四万十町興津地区で、野嶋さん提供)
      住民(左)に家具の固定を呼びかける中学生(中央)ら(高知県四万十町興津地区で、野嶋さん提供)

     固定をしていない人へのアンケートでは、「面倒だから」以外に、「体力が衰え、作業できない」「(固定)器具を買える場所がわからない」を理由にする住民がいることがわかった。「必要性は理解していても、対策に移せない」という人に目を向けることが重要だと考えた。

     15年11月と16年10月の計3日間、地元の中学生と教員、自主防災組織のメンバーら計約40人が、同地区内のほぼ全世帯にあたる約500世帯を訪問。すでに家具を固定した近隣住民の取り組みの写真をチラシにして配り、町の補助制度で「負担は不要」と説明した。希望した世帯には後日、自主防災組織のメンバーやホームセンターの従業員らが、器具を選んで設置した。

     この取り組みで、約80世帯で家具固定が進んだ。野嶋さんは「家具固定の必要性を知識だけで伝えるよりも、顔なじみの子どもや住民が身近な事例を示しながら呼びかける方が効果的とわかった」と語る。

        ■□■

     慶応大の大木聖子さとこ准教授(災害情報論)や大学院生の飯沼貴朗さん(24)らのチームは15年7月から、長野市立真島小学校(児童数約120人)で防災教育を始めた。同市で14年11月、12人が負傷、約1500戸の被害が出た震度6弱の地震が発生し、「地域の防災力を高めたい」と、同小が依頼したのがきっかけだ。

    • 大木さんらが防災教育に使った「月刊だんごむし」。間違い探しのゲームを通じて子どもたちが地震対策を学べるようになっている
      大木さんらが防災教育に使った「月刊だんごむし」。間違い探しのゲームを通じて子どもたちが地震対策を学べるようになっている

     活動の柱は、月1回配布する防災便り「月刊だんごむし」。児童用と保護者用に、2種類ある。家具固定をテーマにした回では、児童用で家具固定をした部屋と未固定の部屋の絵を並べた間違い探しゲームを、保護者用で家具固定の方法を載せた。

     16年2月、保護者へのアンケートでは、防災意識は向上したが、家具固定や食料備蓄などの対策をした人はほとんど増えなかったことが明らかになった。

     防災意識の向上を、どのようにして行動に結びつければよいのか。

     チームは、実際に家具固定などを行った保護者に聞き取り調査し、自分の子どもや、保護仲間の取り組む姿を見たことが「行動の引き金になった」と、答えた人が多かったという。

     そこで2種類の防災便りを一本化し、児童の感想に保護者が返事を書く欄を作ったり、対策を始めた保護者を紹介するコーナーを設けたりした。その結果、16年12月のアンケートでは、食料備蓄は約5倍、家具固定は約3倍に増えた。

     岩手県釜石市などで防災教育に取り組む群馬大の片田敏孝教授(災害社会工学)の話「防災教育で心がけているのは、命を守るんだという気持ちをいかに内発的に持ってもらうかだ。専門家の尺度で押しつけるのではなく、どれだけ相手の立場に立てるかが重要だ」

     ◇足元の活断層知って

    • 津村建四朗さん
      津村建四朗さん

     政府の地震調査委員会は「全国地震動予測地図」を公表しているが、防災行動に結びついていないとの指摘もある。元委員長、津村建四朗さん(83)に市民にできることを聞いた。

     阪神大震災前、地震学者は神戸の下に活断層があると知っていたが、社会に伝わっていなかった。そこで全国の活断層を10年かけて調べて、今後30年に震度6弱以上の揺れが起きる確率を示した「全国地震動予測地図」を作った。

     専門家以外の方が、地図1枚で地震の危険性を理解することは難しい。市民の皆さんには、地図だけでなく他の資料も見てもらいたい。足元にある活断層や地震の規模などが詳しく説明されている。

     そうした情報を知った上で、「小さな地震が頻発する」など普段と違うことが起こった時は、地域で最も大きい地震が起きると思って準備してほしい。地震の前兆を判断することはまだ難しいが、普段と違うということは誰でも判別できると思う。

    2017年01月20日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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