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    {探る}自閉スペクトラム症(ASD)/特異な見え方疑似体験

    砂嵐、白飛び・・・外出阻む

     自閉症やアスペルガー症候群などを含む発達障害「自閉スペクトラム症」(ASD)の人が、対人関係などの社会性に困難を抱えやすいのは、周りの世界の見え方が違うことも一因とされる。大阪大などのチームが世界で初めて開発した装置で特異な視覚世界を体験し、支援のあり方を考えた。(山崎光祥)

     装置は「ASD視覚体験シミュレータ」。ゴーグルのように装着して周囲を見ると、ASDの人が見ているのと同じような光景が、内蔵の小型スクリーンに映し出される。

     大阪大の研究室で、装着させてもらった。開発チームを率いる長井志江ゆきえ特任准教授(42)に促されるまま、目の前で自分の手を振ると、視界に色とりどりの玉が紙吹雪のように舞い始めた。

     キラキラして奇麗、と思ったのもつかの間、紙吹雪は無数の白いノイズに変わった。車のフロントガラスにまとわりつく雨粒か、大粒の砂嵐のようで前が見えにくい。さらに、目前の世界がモノクロに変わったり、焦点がぼやけて不鮮明になったりした。

     周囲の物音や目の前のモノの動きに刺激されて、ASDの人の一部にはこうした視覚症状が表れるのだという。

     通りがかった留学生の顔を見た。眉から下に大きな陰ができて表情が全く読み取れない。不気味に感じる。手元の印刷物に目を向けると、余白の部分から反射する光が強すぎて、ほとんどの活字が真っ白に飛んだ。瞳孔の収縮に時間がかかり、余計にまぶしく感じるのだという。窓の外の景色も日陰しか見えなかった。

     「新たな刺激がなくなって落ち着けば、視覚症状が消えて次第にきれいに見えてきます。家でじっとしているASDの人がいるのは、社会性の問題ではなく、刺激を避けるためかもしれません」

     長井さんが説明してくれた。確かに街は音やモノの動き、まぶしい光であふれている。常に砂嵐などが見えるのなら、外出自体が怖くなるだろう。

    ■□■

     ASDは、対人関係の障害や、パターン化された行動などを特徴とする生まれつきの脳機能障害だ。厚生労働省によると、ほぼ100人に1人にみられる。知的障害の有無など症状は個人差が大きい。

     視覚症状は、ASD以外の人には想像すらできない。例えば、職場で大きな音のするテレビに近い席を嫌がれば、「わがまま」と誤解されかねない。コミュニケーションが苦手なことも災いし、退職につながる場合もあるという。

     チームは、どのような視覚症状が多いのかを把握するため、画像処理の技術で12パターンの視覚症状を作り、実験でASDの男女7人に見てもらった。その結果、▽砂嵐状のノイズ▽まぶしくて視野が真っ白▽焦点がぼやけて不鮮明――など6パターンが特に多いと分かった。

     長井さんは「ASD以外の人にも起きている現象が増幅された形で表れているのでは」と考える。例えば、砂嵐状のノイズは、ASDではない片頭痛の患者にも見えているとされている。ただし、詳しい発生メカニズムは不明だ。

     チームは実験を重ね、2015年春に装置を完成させた。これまでにASDなどに関する講演会で参加者1000人以上が体験。チームは装置の小型化を進めており、将来、ASDの人が働く職場で同僚の理解を深めるのにも役立てる。

     この装置で特異な視覚世界を理解した人たちが、大音量のBGMや、まぶしい照明を減らすなど配慮を重ねていけば、ASDの人も活躍しやすい世の中になっていくだろう。

    支援へ聴覚解明も

     ASDでは、視覚だけでなく触覚や聴覚の困難も報告されており、中には、それら全てに悩む人もいる。触覚の困難は、触られた時にチクチクと痛みを感じたり、いすの座り心地が気になったりといった過敏性が特徴。長井さんは「明るさはサングラス、騒音は特殊なヘッドホンで防げるが、触覚過敏への対処は難しく、症状を訴える人も多い」と指摘する。

     聴覚については、チームがASDの人に聞き取りをするなどして、どんなパターンがあるのか解明を進めている。これまでに、音が強く聞こえる、ピーという耳鳴りがする、テレビの砂嵐のような雑音が響くなどのパターンが判明している。周囲の騒音や、視野に入るモノの動きが影響している可能性も見えてきた。「聴覚世界を疑似体験できる装置も開発したい」という。

    2017年04月14日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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