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    {探る} 「音を超音波に変換する」 音響システムを体験

    狙った場所だけ音お届け

     音を超音波に変えて流すことによって、目的の場所だけに音を届ける音響システムを立命館大のグループが開発している。近い将来、大型ディスプレー広告やスポーツの試合で活用される日が来るかもしれない。実際に体験させてもらい、その可能性を探った。(松田俊輔)

     

     開発に取り組んでいるのは、立命館大情報理工学部の西浦敬信教授(音響工学)のグループ。びわこ・くさつキャンパスにある研究室を訪ねた。

     室内には、いすが一つ置かれていて、それを取り囲むように左右に3台ずつスピーカーが配置されていた。勧められていすに座ると、学生がスピーカーの向きを調整し始めた。「いきますよ」。西浦教授の声を合図に、聞き覚えのある旋律が流れてきた。時々「ガサガサッ」とノイズのような音が混じるが、クラシックの名曲「カノン」だ。

     「そのまま立ってみてください」。指示されて立ち上がると、心地よかった音楽が一瞬で消え、静寂に包まれた。音量を操作したそぶりはない。「もう一度座ってみてください」。ゆっくりと腰を下ろすと、再び音楽が聞こえ始めた。

     

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     西浦教授によると、人が聞くことのできる音(周波数20~2万ヘルツ)を3種類の超音波(同約4万ヘルツ)に変換し、いすに座る人の耳に向かってスピーカーから照射する。

     超音波は、周波数が高すぎて人間の耳では聞くことができない。ただ、周波数が少し異なる超音波同士が交わると、わずかな周波数の差が生じ、それが低周波の音として聞こえるようになる。この性質を利用し、3種類の超音波を交わらせ、聞こえる音にする。

     しかも、超音波にはまっすぐ進む性質があるため、3種類の超音波が交わる点以外の場所では音は聞こえないという。低い周波の音が空間に広がるように進むのとは異なる。

     スピーカーには、直径1センチほどの円形の「素子そし」と呼ばれる機器が150個以上並んでいた。この一つひとつから超音波が出る。音を届ける範囲は楕円だえん形の面のイメージで、耳の周りの長径2~45センチほどの範囲を狙って音を届けることができるという。

     カメラと組み合わせた可動型のスピーカーもある。カメラが人の顔を認識し、動きに合わせて上下左右にスピーカーの向きが動く。耳を認識させれば、人が動き回っていても追いかけて、ピンポイントで音が届けられるという。

     

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     研究が進めば、様々な活用が考えられる。需要が高そうなのは、街頭での大型ディスプレーを使った広告。画面の前でしか音が聞こえないようにすれば、周囲への騒音を気にせず商品やイベントをPRできる。

     テレビのスピーカーに導入し、リビングの1か所だけで音が聞こえるようにすれば、テレビを楽しむ両親の横で子供が静かに宿題をできるようになるだろう。野球の試合で使えば、マウンド上の投手にだけ聞こえるように、ベンチから超音波で指示を出すことができるかもしれない。

     ただ、課題もある。音質はまだ明瞭とは言えず、AMラジオと同じレベルまで良くすることを目指している。音量も小さい。西浦教授は「企業と協力して、5年ぐらいで商品化を目指したい」と話す。

     

     騒音減の技術実用化

     

     音を空間の一点だけに届ける技術は研究途上だが、音が聞こえる範囲を制限して騒音を減らす技術は、すでに民間企業が開発し、実用化されている。

     「指向性スピーカー」などと呼ばれるものだ。人が聞くことのできる周波数の音を、超音波と合わせてスピーカーから発射する。そうすると、音が届く範囲はスピーカー正面の直線上に制限される。それ以外の範囲には聞こえないから、騒音を軽減できるという。

     神奈川県鎌倉市の湘南モノレールは2015年10月、住宅地と隣接する片瀬山駅の構内放送で、この技術を導入した。ホームで列車を待つ人たちが並ぶ場所を狙って音を届けている。

     

     ◇超音波 人間の耳では聞くことができない高い周波数の音。一般的には2万ヘルツ以上のものを指す。コウモリやイルカなどの動物がコミュニケーションに使っている。

    2017年05月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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