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    {知る} 類人猿の新種 88年ぶり

    オランウータン、古い特徴 ヒト進化も解く?

     東南アジアのスマトラ島で新種のオランウータンが確認されたとする論文が11月、米科学誌に掲載された。発表したのはスイス・チューリヒ大を中心とする国際研究チーム。ヒトに極めて近い大型類人猿の新種発見は1929年のボノボ以来、88年ぶりという。新種の発見からどんなことが見えてくるのだろうか。(今津博文)

     

     

    ■生息は800頭未満

     野生のオランウータンは現在、スマトラ島北部とボルネオ島にだけ生息する。両島の個体はそれぞれ別種で、推定でスマトラ種が約1万4000頭、ボルネオ種が5万~5万5000頭。国際自然保護連合(IUCN)は、いずれも絶滅の危険性が最も高い「近絶滅種(絶滅危惧IA類)」に指定している。

     今回、「第3のオランウータン」が確認されたのは、スマトラ島にある世界最大のカルデラ湖「トバ湖」の南側一帯。推定で800頭足らずが生息していた。

     トバ湖は約7万4000年前の巨大噴火でできたとされる。南北約100キロ、東西約30キロと広大なため、湖の北と南で動植物の種類が異なる。

     スマトラ島はかつて、島全体にオランウータンが生息していたが、トバ湖の南側では、5万年以上前にヒトが入ってきて以降、絶滅したと考えられてきた。ところが1990年代末、その南側・タパヌリの密林で生息が確認された。

     

    ■他の2種のルーツ?

     チームは、ふんや体毛を採取してDNAを分析。2013年には死んだ雄の頭骨も手に入った。

     調査の結果、このオランウータンは頭が小さく、犬歯の幅が広いなど、他の2種より古い特徴を持っていた。また成熟した雄が発する「ロングコール」という音声は、スマトラ種のように長く、ボルネオ種のように高音で、両種の特徴を併せ持つこともわかった。

     DNA配列から、スマトラ種とは約340万年前、ボルネオ種とは約70万年前に分岐したことが判明。チームは、この新種を「タパヌリ・オランウータン」と名付けた。

     

    ■生息地ごと保護必要

     これで大型類人猿はゴリラ2種、チンパンジー、ボノボ、従来のオランウータン2種に加え、計7種になった。

     ゴリラの研究で知られる元国際霊長類学会会長の山極寿一・京都大学長は「ヒトの進化を考える上でも大きな発見」と強調する。

     ヒトは現在、ホモ・サピエンス1種だが、かつてはホモ・ハビリス(240万~140万年前)やネアンデルタール人(40万~3万年前)など、別種の人類が同じ時代に生き、同じような環境に異なる適応をして共存していた。

     今後、3種のオランウータンを比較すれば、かつて別種のヒトたちがどのように共存していたのか、また、その中でなぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのか、といったことを探る手がかりが得られる可能性があるという。

     スマトラ島では過去30年間で森林が半減し、オランウータンがすめる場所は急速に狭まっているという。山極学長は「生息地の環境ごと保護し、調べていく必要がある」と話している。

     

    ◇まさに「生きた化石」

     野生のオランウータンの生態に詳しい久世濃子・日本学術振興会特別研究員(国立科学博物館)=写真=に話を聞いた。

     

    • 久世濃子さん
      久世濃子さん

     タパヌリ種は、スマトラ種やボルネオ種よりも古い特徴が見られ、まさに「生きた化石」といえるのではないか。スマトラ種と分かれた約340万年前といえば、ヒトの祖先はまだアフリカで、アウストラロピテクスだった時代だ。

     東南アジアはアフリカと比べると森の実りが不安定で、食糧が常に豊かとはいえない。そのため、オランウータンは「食いだめ」ができ、体に脂肪を蓄えやすいなど、ゴリラやチンパンジーにはなく、ヒトに近い特徴がある。

     野生のオランウータンは観察が非常に難しい上、現地の政情不安などで研究が遅れており、謎が多い。タパヌリ種の発見を機に新たな研究が進むだろう。

     

    ◇オランウータン 東南アジアに生息するヒト科の類人猿。ボルネオ種の雄は体長(手足を除く)1~1・5メートル。雌は0・8~1メートル。スマトラ種はひとまわり小さい。群れを作らず単独行動するほか、赤ちゃんが離乳するまで約7年かかり、この間は妊娠・出産しない「少産・少子」が特徴。オランウータンとは現地語で「森の人」を意味する。

    2017年12月15日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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