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    スマートドライ(象印マホービン)

    布団ふかふか本体挟むだけ

     象印マホービンの布団乾燥機「スマートドライ 」は、空気を送り込むホースや布団の中で膨らませるマットをなくし、「革命的な布団乾燥機」として注目されている。市場を大きく変えた商品開発の背景には、後発ならではの大胆な発想の転換があった。(中根靖明)

    「新規参入」

     「新収益源として、布団乾燥機にもう一度チャレンジしてみないか」。2010年初め、食器乾燥機など「生活家電」の企画を担当していた西広嗣(41)の一声で開発が始まった。

     象印はかつて、マットやホースの付いた布団乾燥機を販売していたが振るわず、1998年に撤退。販売終了から10年以上が経過しており、実質的には新規参入だった。生活家電の技術者だった岩本雄平(38)は「消費者をあっと驚かせることが必要だった」と振り返る。

     布団乾燥機は「使わなくなった家電ランキング」で常に上位に入っていた。「マットを広げたり畳んだりするのに手間がかかる」「後片付けが面倒」というのが理由だ。

     セットや収納が簡単にできることが、商品開発の目標になった。だが、マットの両端に心棒を入れるなど試行錯誤を繰り返したが、手間はそれほど変わらない。岩本らは発想を根本的に変え、ホースもマットもない「全く新しい形」を目指すことになる。

    • 布団乾燥機「スマートドライ」の開発に携わった(左から)安藤さん、岩本さん、米原さん(大阪府大東市で)=永井哲朗撮影
      布団乾燥機「スマートドライ」の開発に携わった(左から)安藤さん、岩本さん、米原さん(大阪府大東市で)=永井哲朗撮影

    靴・衣類にも

     ホースを使わずにどうやって直接、掛け布団と敷布団の間に温かい空気を送り込むか。布団の隅々まで空気を行き渡らせるにはどうするか――。

     たどり着いたのは、温風を発生させる本体と風が吹き出す部分を一体化することだった。風の吹き出し口は長方形ではなく、台形にすると布団の外に空気が漏れず、全体に行き渡ることも分かった。

     電気ポットの開発者だった米原真輔(34)は自ら志願し、開発に加わった。課題は「コンパクトに収納できること」。米原は本体と吹き出し口をつなぐ「可動部」の改良に取り組んだ。

     「折り畳んで収納するだけでなく、いろんな角度で固定できれば使い方も広がる」。バネなどを使い、吹き出し口の角度が約20段階に変えられる構造にした結果、布団以外にも靴や衣類も乾かすことができるようになった。

    30分で完売

     3年近い開発期間を経て、スマートドライは2012年11月に発売された。「世界で初めての商品」のため、消費者に使い方を分かりやすく説明する必要があり、最初はテレビ通販限定で販売することにした。

     放送が始まると、まもなく「電話が大変混み合っております」と表示された。固唾かたずをのんで見ていた岩本や米原らは「やった」と歓声を上げた。あっという間に用意していた数を完売し、1時間番組は30分程度で「打ち切り」になった。

     13年9月には量販店など一般の店舗でも発売。販売ランキングなどで1年以上トップを維持した。現在は競合他社もマットを使わないタイプの商品を投入し、競争は激化している。商品企画を担当する安藤裕樹(33)は「消費者の声を取り入れて息の長い商品にしていきたい」と力を込めた。(敬称略)

     

    スマートドライ

     スマートドライは本体を開き、掛け布団と敷布団の間に挟んでスイッチを入れると乾燥が始まる。マットとホースをセットする手間がかからず、従来の布団乾燥機とは異なる画期的な商品として話題を呼んだ。収納時はかつてのタイプライターくらいの大きさで、厚みも13センチと場所をとらない。他メーカーの追随もあり、布団乾燥機の国内出荷台数は41・4万台(12年度)から65・9万台(15年度)に拡大。成熟市場を再活性化させる原動力になった。

     

    「あったら便利」日々追求

    市川典男(いちかわ・のりお)社長 58

    • 象印マホービンの市川典男社長(大阪市北区で)
      象印マホービンの市川典男社長(大阪市北区で)

     「日常生活発想」を企業スローガンに掲げています。消費者の皆さんが「日々の生活にあればいいな」と思うモノは何か、そのことを社員一人ひとりが日々考え、追求するという意味です。大ヒット商品となった「スマートドライ」もその積み重ねの中から生まれた商品といえます。

     中核事業は炊飯器を中心とした調理家電と祖業でもある魔法瓶などです。これらは今も売上高の9割以上を占めています。今後は「第3の柱」として、布団乾燥機や空気清浄機などの「生活家電」を育てていく方針です。

     海外展開も強化しています。東南アジアや北米では、炊飯器や魔法瓶、電気ポットなどの販売が年々伸び、現在では全体の3割程度が海外での売り上げです。

     メーカーによっては、海外展開する商品は現地仕様に合わせるところもありますが、うちは国内向けの商品を海外でも販売することを基本としています。質で日本人の要求を満たすなら、海外の人たちにもきっと受け入れてもらえると確信しているためです。

     私は祖父から数えて4代目の社長になります。子供の頃はまだ魔法瓶を作る町工場でした。これからも皆さんの暮らしに寄り添う企業でありたいと思っています。

     

    こんな会社

     1918年に大阪市西区に設立した「市川兄弟商会」が前身だ。当初は魔法瓶内部の「中びん」などを製造していたが、終戦後の48年に完成品の製造販売を開始。その後、炊飯器や電気ポットなどに製品の幅を広げた。「象」のマークは戦前からあり、61年に現在の社名に改称した。2015年11月期の連結売上高は897億円、従業員数は1282人(連結ベース)。

    2016年10月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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