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    エコ楽ボックス(アートコーポレーション)

    • 「エコ楽ボックス」の企画、開発に携わったアートコーポレーションの川田成樹さん(左)と上加世田剛さん(大阪府大東市で)=近藤誠撮影
      「エコ楽ボックス」の企画、開発に携わったアートコーポレーションの川田成樹さん(左)と上加世田剛さん(大阪府大東市で)=近藤誠撮影

     

    エコかつ顧客目線貫く 

     引っ越し大手のアートコーポレーション(大阪府大東市)は2008年、繰り返し使える収納ケース「エコ楽ボックス」を導入した。壊れやすい食器も間仕切りの間に詰めるだけ。割れ物をくるむ包装紙が要らず、収納用の段ボールの使用量を減らせる。顧客にとっても会社にとっても、エコで楽な引っ越しに不可欠な頼もしい存在となっている。(杉山正樹) 

     

    「ゴミの山」解消 

     

     引っ越し作業で発生するゴミの量はばかにならない。

     標準的な家庭では、皿や食器などをくるむのに500~1000枚の包装紙を使う。引っ越しを1件終えた後のトラックは、使用済みの段ボールで、積載スペースの3分の1が埋まる有り様だった。これらすべてが「紙ゴミの山」になった。

     顧客のためにも地球環境のためにも、何とかならないのか。「ゴミをゼロにする引っ越しを目指していかないといけない」。社長の寺田千代乃(70)は06年、全国16ブロックのゼネラルマネジャー(GM)が集まった会議で、何度も使えてゴミにならない資材の開発を指示した。

     「布で食器をくるんではどうだろうか」「食器を詰めた箱から空気を抜き、圧縮してみては」。社内からは様々な案が飛び出した。試作と実験を繰り返して半年が過ぎた頃、折りたためる樹脂製の収納ケースに、間仕切りを入れる案に絞り込んだ。

     その後も試行錯誤が続く。大阪支店のGMとして、新収納ケースの現場での試験を担当した上加世田かみかせだ剛(46)(現CS推進室課長)は「最後まで間仕切りのサイズが難題だった」と振り返る。食器の種類や形、大きさは一つひとつ違い、すべてには対応できない。

     解決策は逆転の発想から生まれた。どうしても収納ケースに入らない2~3割の食器は、今まで通り紙でくるんでもらえばいい――。顧客サービス担当のCS推進課長を務め、開発の取りまとめ役だった川田成樹(44)(現CS推進室長)は「食器を全部収納できないと駄目だという考えが邪魔をして、なかなか答えが出せなかった」と語る。開発への着手から2年後に商品化にこぎ着けた。 

     

    薄型テレビ用も 

     

     08年7月に無料での貸し出しを始めると、現場スタッフから「数が足りない」と問い合わせが殺到した。営業担当の社員が見積もり時に実物を持参した効果もあり、驚くほど好評だった。10年には32~52インチの薄型テレビ用も開発。現在は照明機器用のエコ楽ボックスを開発中で、17年度前半の商品化を見込む。

     実はエコ楽ボックスの原型となる収納ケースを、アートは1994年に採用していた。ところが、「ほかの人が使った箱に食器を入れるのは抵抗がある」と受け入れられず、倉庫に山積みになっていた。それから10年余りの時を経て、環境問題に対する消費者の関心が飛躍的に高まっていた。社会の要請を先取りしたアートの取り組みに、時代が追いついてきた。

     川田は「これからも顧客の声を形にしていく」と意気込む。上加世田も「どこの家庭にもある電子レンジやいす用も開発してみたい」と意欲を燃やし、顧客目線の引っ越しをモットーにサービス向上を目指していく。(敬称略) 

     

     

    エコ楽ボックス 

     

     段ボールや包装紙など、紙製の資材を全く使わずに簡単に組み立てられる収納ケース。樹脂製で耐久性や衝撃性に優れるだけでなく、密閉性も高いため衛生的という。

     現在は食器用と靴用、テレビ用、衣類用がある。食器や靴はそのままケース内に詰めるだけ。衣類もたたむ必要がなく、ハンガーにかけたまま収納できる。一般家庭の引っ越しなら食器やテレビ用は5年程度、衣類用は1年程度、繰り返し使えるという。

     

     

     

     

    寺田千代乃(てらだ・ちよの)社長70 

     

    保育事業にも力入れる 

     

     引っ越しは転勤や新居の購入などの節目に行われ、人生そのもの。その家族の大切な転機に立ち会うとの心構えで取り組んでいる。

     人口減少で業界内の競争が激化し、料金は20年前よりも下がっている。それだけに、1件ずつの引っ越し作業の質を高めることが求められている。大切にしているのは従業員や利用者の声だ。薄型テレビ用のエコ楽ボックスや、音が小さく静かな「サイレント台車」も、現場の声から生まれた。

     2015年度は約56万件の引っ越しを受注した。利用者アンケートの回答者の9割以上が、当社のサービスを「良かった」と評価してくれた。今後は、VR(仮想現実)を使い、家具の配置や壁紙の模様をシミュレーションできるサービスも導入してみたい。企業のオフィスや工場移転のサービスも手がけており、他社に負けない強みを持ちたい。

     また、保育事業にも力を入れている。運営する保育施設は全国で183か所に上る。開園の要請は多いものの、数を追うのではなく質を重視したい。昨年7月からは、発達障害を抱える乳幼児の教室を運営している。現在は3か所だが、20年に50か所に拡大したい。

     

    こんな会社 

     1968年、大阪府大東市に運送会社「寺田運輸」を創業。引っ越し事業に本格進出した翌年の77年、専業会社の先駆けとなる「アート引越センター」を設立した。電話帳で業者を探す際に目立つよう、50音順で最初に登場する社名にした。90年に現在の社名に変更した。各支店の電話番号は下4ケタを「0123」に統一。2016年9月期の連結売上高は980億円、連結従業員数は4564人。

    2017年04月05日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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