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    イクリプス(富士通テン)

    カーナビから動画投稿

     富士通テンの車載機器ブランド「イクリプス」 の中核がカーナビゲーションシステムだ。後発ながら、使い勝手の良さでユーザーの支持を獲得してきたが、最近は若者の車離れが加速し、スマートフォンをカーナビ代わりに使う人も増えてきた。市場環境が厳しさを増す中、消費者のニーズに向き合う日々が続く。(田畑清二)

    一体化の歴史 イクリプスの初代はカーオーディオの機器だった。それから20年余り。カーナビをDVDやMDなどと「一体化」させる歴史を歩んできた。

     2015年夏、新製品開発を任された永元覚(49)には一つのアイデアがあった。「カーナビとドライブレコーダーを一体化させてはどうか」――。数年前から温めていた企画だった。

     2月に台湾で起きた飛行機墜落事故で、ドライブレコーダーが撮影した動画がニュースで取り上げられた。大きな機体を傾けながら、高速道路を走るタクシーや道路の側壁に次々と接触する映像が繰り返し流された。

     社会的な関心も高まっていったが、社内には「一緒にするメリットはあるのか」と慎重な意見も多かった。かつて、ETC車載器の機能を搭載した機種を発売したことがあったが、ETCが本格的に普及する前だったため思うように売れず、販売中止に追い込まれた苦い経験もあるためだ。

    • これまで手がけた歴代のカーナビを前に思い出を語る富士通テンの(左から)山下忠将さん、山崎伸仁さん、永元覚さん(神戸市兵庫区で)=近藤誠撮影
      これまで手がけた歴代のカーナビを前に思い出を語る富士通テンの(左から)山下忠将さん、山崎伸仁さん、永元覚さん(神戸市兵庫区で)=近藤誠撮影

     永元は、ドライブレコーダーの市場規模が年間5割程度ずつ拡大し、一般ドライバーの認知度も8割弱にまで高まっていた点を見逃さなかった。同じく開発担当の山下忠将(43)は「絶えず新しい付加価値を付けていく必要がある」との思いで、社内を説得して回った。

     カーナビは縦10センチ、横18センチの「2DIN」と呼ばれるサイズが一般的だ。新たにドライブレコーダーの基板をどう入れるか。「熱が籠もりやすい」という課題も解消する必要があった。

     設計をイチから見直し、1年あまりかけ、本体を放熱しやすい構造に仕上げた。ドライブレコーダーを搭載した新しいカーナビは16年12月、「録ナビ」として市場投入された。その場で撮影した映像を見ることができるだけでなく、動画をスマホに転送し、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にも投稿できるとあって人気を呼んでいる。

    変わる環境 全地球測位システム(GPS)付きのカーナビが誕生して約30年。普及率は8割強に達し、「自宅周辺しか運転しない」などカーナビを必要としない層も含めると、これ以上、販売を伸ばすのは難しくなってきた。

     製品が均質化し、1台あたりの価格も下落傾向にある。かつては、CDが複数枚入ったり、携帯型ゲーム機と通信できたりすることが売りの商品もあったが、今後はスマホやタブレット端末をカーナビとどう連携させるかが課題となってくる。

     製品企画室長の山崎伸仁(47)は「今後も人工知能(AI)など技術は高度化していく。技術の進歩は早く、新しいものをどんどん取り入れないといけない」と語った。岐路を迎えたカーナビ市場で、さらなる使い勝手の向上を見据えている。

    (敬称略)

     

    クリップ

     名前の由来は、日食や月食の「食」を意味する英語「eclipse」から。「他の追随を許さず、すべてを凌駕りょうがする炎」をイメージしたという。ETC車載器やドライブレコーダーのほか、音響技術を生かした家庭用オーディオのブランドとしても使われている。品ぞろえの中心はカーナビで、運転席と助手席で同時に異なる画面が見えるタイプや、地図を自動更新する機種などユニークな製品を次々と開発し、20%弱のシェア(市場占有率)を誇る。

     

    自動車新時代に挑戦

    山中明(やまなか・あきら)社長 65

    • 富士通テンの山中明社長(神戸市兵庫区で)=近藤誠撮影
      富士通テンの山中明社長(神戸市兵庫区で)=近藤誠撮影

     自動車業界には、百年に一度の大きな変革の波が押し寄せている。「自動運転」、「コネクティッド・カー(つながる車)」、電気自動車(EV)に代表される「電動化」の三つがキーワードだ。業界の枠を超えた提携や出資にも乗り出している。

     富士通テンは今年で創業45年になる。カーオーディオから始まり、レーダー、エンジン制御へと技術を展開してきた。だが、従来のやり方を踏襲して、技術を磨き上げていけば明日、あさってが来るという時代ではなくなった。新しい技術に取り組んで、新しい価値を自動車に提供できるか。会社としての大きなチャレンジだ。

     カーオーディオはカーナビと一体型にして商品の幅を広げてきた。「録ナビ」もその一つで、時代時代で自ら変化し、勝ち残ってきた歴史があると思っている。

     親会社が富士通からデンソーに代わるが、デンソーは同じ自動車業界の中にあり、部品の世界では盟主。我々より広い範囲でビジネスをしており、勉強させてもらいながらレベルアップしていきたい。一方、富士通も株主として残る。今後も、IT(情報技術)分野での連携を維持し、関係をさらに深めていくことは重要だと考えている。

     

    こんな会社

     1920年、飛行機などを製造する川西機械製作所として創業。49年に家庭用ラジオ事業などを引き継いで神戸工業となり、日本初の車載ラジオを開発した。68年に富士通と合併。72年に分離して富士通テンとなった。2016年秋、出資比率をデンソー51%、トヨタ自動車35%、富士通14%に変更することを発表した。16年3月期の連結売上高は3632億円、従業員数は1万318人。

    2017年04月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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