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    新あさひ豆腐(旭松食品)

     

    伝統食品 減塩で魅力アップ 

     

     豆腐を凍らせて乾燥して作る高野豆腐は約800年前から、保存食や健康食として重宝されてきた。旭松食品の「新あさひ豆腐 」は、塩分を減らす新製法の導入などで、伝統食品に新たな価値を加えた。(岸本英樹) 

     

    重曹の代わりに 

    • 包装のデザインについて話し合う宮下愛美さん(左)、片桐陽一さん(中央)、石黒貴寛さん(長野県飯田市で)
      包装のデザインについて話し合う宮下愛美さん(左)、片桐陽一さん(中央)、石黒貴寛さん(長野県飯田市で)

     「健康を切り口に、高野豆腐の付加価値を高められないか」

     2013年頃、食品研究所に勤務する石黒貴寛(39)に、経営陣から声がかかった。

     石黒の頭をよぎったのは08年頃に、研究をした新製法だった。

     高野豆腐の伝統製法は、硬く水切りした豆腐を寒中の屋外に置いて冷凍、乾燥を繰り返し水分を抜く。ただ、柔らかく炊きあげるのが難しく、旭松では1972年から製造工程の最終段階で、重曹(炭酸水素ナトリウム)を入れてふっくらさせる製法を導入していた。

     石黒が発案したのは、重曹の代わりに、炭酸カリウムを用いる方法だった。重曹を使うと微量に残る塩分を、95%減らしてほぼゼロにできる。カリウムには体内の塩分を排出する働きもあり、二重の減塩効果が期待できる。

     ただ、経営が安定していたこの頃、リスクを取って、30年以上続けてきた製法を抜本的に変えるという発想は会社にはなく“お蔵入り”になっていた。

     それから5年、経営環境は一変した。2011年に、売上高の半分以上を占めていた納豆事業からの撤退を余儀なくされたのだ。

     旭松は1984年に「なっとういち」ブランドで納豆事業に進出。「においひかえめ」という新たな価値を打ち出し、“納豆嫌い”とされる関西人らの需要を掘り起こした。

     ところが、生産設備さえ導入すれば納豆を簡単に作れるようになり、新規参入が相次いだ。安売り競争に巻き込まれたことで、あっという間に不採算事業に転落した。

     撤退により売上高がピーク(99年3月期)の半分に落ち込むなか、頼るのは本業の高野豆腐しかなかったが、納豆同様、価格競争が激化していた。 

     

    ブランド刷新 

     経営陣が石黒に求めたのは、価格競争と一線を画すことができるような付加価値を作り出すことだった。「減塩効果」は、健康食品とされてきた高野豆腐の価値を一層高めることになる。経営陣は開発にゴーサインを出した。

     経営陣の思いと裏腹に、工場側は新製法の導入に尻込みした。「40年以上重曹でしか作っていない」「時間をかけて少しずつ変えていけば良い」。商品設計担当の片桐陽一(45)が、工場の担当者と膝詰めで話し合いを重ね、課題を一つずつつぶした。

     2014年9月、「こうや豆腐」のブランドを「新あさひ豆腐」に刷新したうえで、従来品より1割値上げして販売した。大きな挑戦だったが、これが受け入れられれば、価格競争からは逃れられる。

     片桐の下で商品設計を手がける宮下愛美(38)が、健康への配慮をPRする包装のデザインを考案するなどして、差別化を演出した。

     消費者の反応は上々で、前年割れが続いていた高野豆腐の市場が上昇傾向に転じた。「凍らせるとなぜスポンジ状になるのかなど、高野豆腐には未解明の部分が多い。研究を進め、新たな魅力を引き出したい」と石黒は意気込む。

    (敬称略) 

     

    新あさひ豆腐 

     1951年から製造を続ける主力商品。58年には南極観測隊の越冬食糧として採用された。

     製造工程の最終段階で重曹(炭酸水素ナトリウム)を入れる製法をいち早く導入し、現在も業界の主流となっている。

     近年は、減塩効果の期待できる炭酸カリウムを使う新製法の導入に加え、成分に含まれる不消化性たんぱく質に糖尿病予防効果があるとする研究成果を発表するなど、健康食品としてPRを強化している。

     

     

    医療・介護食300種 強みに 

    木下博隆(きのした・ひろたか)社長 55 

    • 旭松食品の木下博隆社長
      旭松食品の木下博隆社長

     2011年に納豆事業から撤退した。これを受けて業績が低迷していたが、16年3月期は、連結最終利益が4年ぶりに黒字となった。

     それでも、従来と同じことを繰り返しているだけでは売り上げはどんどん落ちていくばかりだ。年々変わる消費者の要求に対応しながら進化を続け、しっかりと利益を出していきたい。

     主力の高野豆腐は、元々、長野県飯田市周辺の農家が冬の厳しい寒さを生かして手がけていた作業を集約して産業化したのが始まりだ。

     シェア(市場占有率)は約5割あるが、価格競争は激しい。消費者の健康への関心が高まるなか、学術的な裏付けを持たせて付加価値を高め、需要を拡大しようと頑張っている。

     1978年に食品研究所を開設、基礎研究を地道に積み上げてきた。研究成果を製品開発や健康機能のPRに積極的に生かしている。

     新たな柱として期待できるのが医療・介護用食品だ。20年来手がけているが、2015年度に売上高が10億円を超えた。形状など細かく分類すると300種類を超えるメニューの品ぞろえがあり、強みとなっている。今後、競争の激化も予想されるが、家庭用を強化するなどして勝ち抜きたい。

     

     

    こんな会社 

     1950年、現在の長野県飯田市で高野豆腐の専業メーカーとして設立された。即席みそ汁や医療・介護用食品などの大豆加工品も手がける。高野豆腐は関西が主要市場となっており、90年に大阪市淀川区に本社機能を移した。工場と研究所は長野県内に残る。高野豆腐のシェア(市場占有率)は約5割でトップ。即席みそ汁「生みそずい」もブランド力は高い。2016年3月期の連結売上高は94億円。

    2017年04月26日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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