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    祝祭広場(阪急百貨店梅田本店)

    「コト」を売る大空間

     阪急百貨店梅田本店(大阪市北区)は、売上高2000億円を超える国内有数の百貨店だ。全国的に百貨店の不振が続く中、2012年の建て替えでは、買い物の時間そのものを楽しんでもらう「劇場型百貨店」へと生まれ変わった。

    (畑中俊)

    劇場型

     「モノではなく、商品の価値を伝える『コト』を売る百貨店を作る。『楽しいから来た』と思ってもらえる店でないと支持は得られない」

     阪急百貨店(現阪急阪神百貨店)の本社機能がある香養こうよう会館内の会議室。店舗の建て替えを話し合う05年初頭の社内会議で、社長の椙岡俊一(77、現相談役)が切り出した。建物の9階から12階までの高さ16メートル、約2000平方メートルの巨大な吹き抜け空間「祝祭広場」 の構想をぶち上げた瞬間だった。

     命名には、来店客の「ハレの場」にしてほしいという願いを込めた。建て替えで売り場面積は以前の1・3倍の約8万平方メートルに広がったが、商品を並べる場所は4分の3に抑えた。買い物をする喜びの演出に多くのスペースを割き、祝祭広場はその象徴だった。

    • 祝祭広場の活用に知恵を絞る阪急阪神百貨店の橋本裕一さん(左)と宮武昭宏さん(大阪市北区の阪急梅田本店で)=尾崎孝撮影
      祝祭広場の活用に知恵を絞る阪急阪神百貨店の橋本裕一さん(左)と宮武昭宏さん(大阪市北区の阪急梅田本店で)=尾崎孝撮影

     会議に参加した建て替え担当の橋本裕一(44)は「今までにない百貨店のモデル作りに関わることができる」と気分が高揚したのを今も覚えている。

     新しい本店は12年11月に全面開業した。「売り上げを1円でも上げようとするDNAが染みついていた」という販売促進を担当する宮武昭宏(55)は、初めて見た「売り場ではない」大空間に圧倒され、頭を悩ませる日々が始まった。

     音楽ライブや大道芸などを催してみたが、客はイベントの間しか集まらない。ほかの階での買い回りにはつながらなかった。

     転機になったのは、13年10月の「英国フェア」だ。天井が高い祝祭広場の特性を生かし、バラなどを植えた現地の庭園を再現した。1970年から続いている伝統的な催事だったが、初めての取り組みだった。現地人のスタッフも以前の2倍の40人に増やした。来場客は増え、同時に婦人服や雑貨などの売り上げも伸びた。

    臨場感

     この後、「単にイベントをやるのではなく、商品の背景にある作り手の思いや産地の臨場感を味わってもらう」という基本が確立した。

     籠の展示即売会では著名なインテリアの専門家を招き、「ニューヨークフェア」では現地で活躍するアーティストが連日ライブを行うなど、1週間ほどの単位で絶え間なく新しい催しが開かれるようになった。

     常連客からは「買い物以外の時間も楽しく過ごせるようになった」と評判を呼び、1階や地下からエレベーターで直接、9階に向かう客が目立つようになった。客の平均滞在時間は以前の15分から3倍の45分に延びた。

     宮武は「娯楽の選択肢にテーマパークや映画館に加え、百貨店が入るようになった」と胸を張る。橋本は「ネットで商品を買う人が増える中で『阪急で買うと楽しい』という人をどれだけ増やせるかが鍵になる」と語る。

     劇場型百貨店の理想を追い求めたその先に、消費者の支持があると信じている。(敬称略)

     

     大理石を使った階段は約300人が腰を下ろすことができ、イベント開催時の観覧席になる。店内で購入した弁当やデザートなどをそこで味わう人も多い。天井には直径1・2メートルの巨大ミラーボールがつるされている。時計は、建て替え前のコンコースの壁にあったものを移設した。広場で催されるイベントは年間40回ほどで、1年以上前から計画する。担当者は国内外を飛び回り、常に新しい「ネタ探し」に追われている。

     

    非日常の華やかさ

    荒木直也(あらき・なおや) 阪急阪神百貨店社長 60

     阪急百貨店梅田本店は2012年の建て替えで、「非日常」の華やかさを打ち出すことができるようになった。祝祭広場の催しは、暮らしの中にエンターテインメントを提供するという役割がある。百貨店そのものを出かける際の目的地にするという意味では、来店動機を喚起することにも貢献できていると思う。

     家庭用品や食料品など他の階の買い回りの向上にもつながっている。これからも「今の生活を向上させたい」という意欲の高い中間層の需要を引きつけていきたい。

     百貨店を取り巻く消費環境は大きく変化している。主力の衣料品は、SPA(製造小売り)などの台頭で消費者の選択肢が増え、単価自体も下がっている。「高くても百貨店で買う」という従来のお客さんは減り、今までのやり方では多様なニーズを捉えられなくなってきている。今後はSNSなどのデジタルメディアも活用し、より広い範囲からお客さんに来てもらえるようにしていきたい。

     一方、西宮阪急や千里阪急などの郊外型の店舗は別の戦略になる。単純に都市型百貨店の小型版を作るだけではお客さんに来てもらえない。商圏も3~5キロ・メートルと狭く、それぞれの顧客層に合わせた店作りを進めていく。

     

    こんな会社 阪急阪神百貨店は1929年創業の阪急百貨店と、33年創業の阪神百貨店が経営統合し、2008年に誕生した。持ち株会社エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの中核企業で、関西を中心に15店舗を展開する。阪急梅田本店と並ぶ旗艦店の阪神百貨店梅田本店は現在建て替え中で、21年に全面開業の予定。17年3月期の売上高は4275億円、従業員数は3193人(17年3月末時点)。

    2017年05月17日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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