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    カスピ海ヨーグルト(フジッコ)

    • カスピ海ヨーグルトを担当する(左から)敷田加寿美さん、小阪英樹さん、紀井孝之さん(神戸市中央区で)=大久保忠司撮影
      カスピ海ヨーグルトを担当する(左から)敷田加寿美さん、小阪英樹さん、紀井孝之さん(神戸市中央区で)=大久保忠司撮影

     

    ねっとり食感急成長 

     

     ねっとりした食感と穏やかな酸味が特徴の「カスピ海ヨーグルト」 。健康志向の高まりから、新商品の投入が相次ぐヨーグルト市場において、しっかりと固定ファンをつかんでいる。昆布や豆製品を手がけるフジッコが世に広め、金看板の煮豆「おまめさん」などに続くヒット商品に育て上げた。

    (小野卓哉) 

     

    安全な種菌を 

     

     「豆はいいから、ヨーグルトをやりなさい」

     顧問の桑名好恵(64)は2002年、上司から驚きの指示を受けた。当時は「甘くない煮豆」の商品開発を担当していた。「ヨーグルトのためにフジッコに入ったわけじゃない」との思いも脳裏をかすめたが、「いっちょやってみるか」と気持ちを切り替えた。

     黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方には、ジョージアやアルメニアなどの国があり、かつて世界有数の長寿地域とされた。桑名に課せられた使命は、ジョージアで食べられていたヨーグルトを日本に普及させるため、安全で衛生的な種菌を家庭に届けることだった。

     完成した手作りセットは、乾燥させた種菌と、牛乳を発酵させるプラスチック製の試験管、作り方をまとめた冊子の組み合わせだ。通信販売が始まった当初は、「理科の実験みたいで怖い」「本当にこれでヨーグルトができるのか」との疑問や懸念が数多く寄せられたものの、新聞への記事掲載や口コミで爆発的に広まった。03年には本社工場に製造ラインを設け、種菌だけでなくヨーグルト自体の製造販売にも踏み切った。 

     

    落とし穴 

     

     ところが、追い風に乗っていた15年10月、商品の一部に粘り気の不足が見つかった。安全面の問題はないが、ねっとりとした食感がカスピ海ヨーグルトの最大の特徴だ。社内の品質基準を下回ったことを理由に販売を休止した。

     工場に派遣された研究開発部門の小阪英樹(43)は、原因究明に駆けずり回った。配管を1本ずつ点検し、原料もすべて調査した。製造環境を一から見直し、設備も入れ替えた結果、ようやく元の品質を取り戻すことができた。

     販売再開にこぎ着けたのは16年1月。ブランド責任者の紀井孝之(47)は頭を抱えた。取引先や消費者は販売休止を、「潔い決断」と好意的にとらえてくれた。ただ、実際にどれだけ売れるかは未知数だ。結局、売り上げが以前より3割程度減ると見込み、販売戦略を練った。復活宣言 復活を印象づけようと、フジッコは社員総出のPRイベントをスーパーなどで開いた。紀井と一緒に企画を練った敷田加寿美しきだかずみ(32)は、買い物客から「また買ってるよ」と声をかけられたことが忘れられない。「待っている人がいてくれた」と手応えを実感できた。

     その後も種菌の販売は好調に推移し、16年6月に600万セットを突破した。17年3月期のヨーグルト製品の売り上げは62億円と、売上高全体の10・2%に達した。

     小阪は粘り気不足で販売を休止した際、助言をあおいだ専門家との交流を今も続けている。「不測の事態が起きたとしても、迅速に対処しないといけない」。安全で高品質のカスピ海ヨーグルトを届ける責任感を、片時も忘れることはない。(敬称略) 

     

     

    カスピ海ヨーグルト 

     武庫川女子大国際健康開発研究所の家森幸男所長がジョージアから持ち帰ったヨーグルトが起源だ。特徴的な乳酸菌を分離・培養して種菌を作った。

     家森所長は普及に向け、大豆の共同研究をしていたフジッコに相談。ヨーグルトを手作りする種菌などのセットは当初、家森所長が理事を務めるNPO法人との共同販売だった。

     独特の粘り気は、乳酸菌が生む糸状の糖に由来する。20~30度の気温で発酵するため、家庭でも比較的簡単にヨーグルトを作れる。 

     

     

     

    北島幹也(きたじま・みきや)取締役マーケティング本部長62 

     カスピ海ヨーグルトを中心とする自社のヨーグルト製品は、2017年3月期の売上高が前期比で約27%増えた。主力の昆布製品や豆製品よりも伸びが大きい。

     ヨーグルト市場の成長率は直近の1年間で1割弱と、半端じゃない高さだ。やや勢いが鈍ったとはいえ、ほかにこれほど伸び続けている食品はまずない。

     フジッコは煮豆や昆布のつくだ煮で、トップのシェア(市場占有率)を握っている。ただ、日本人の食生活は乳製品からのカルシウム摂取量が足りない。和食に不足しているカルシウムを補える点で、乳製品のヨーグルトを持っていることは大きい。

     煮豆は伝統的な食品だが、世の中の変化に対応する努力を続けている。例えば、1世帯あたりの人数減少に対応し、「豆小鉢」という食べきりサイズを06年に追加した。味の面でも少しずつ甘さを抑えたりしている。その結果、ここ2、3年で子育て世代の30歳代の女性層が顧客層に入るなど、時代が追いついてきた。

     今後の成長の柱は、ヨーグルトや総菜だと考えている。ただ、昆布や煮豆も極める余地がある。大豆に含まれる機能性成分「イソフラボン」などの研究を進め、健康につながる商品を提供したい。 

     

     

    こんな会社

     1960年、とろろ昆布などを扱う「富士昆布」として神戸市東灘区で創業。塩昆布の「ふじっ子」など、和食の素材や加工食品が主力で、昆布と豆関連の製品が売上高の半分を占める。スーパーなどの量販店向けに、総菜の製造も手がけている。現在の本社は神戸市中央区で、2017年3月期連結決算の売上高は608億円、最終利益は37億円。グループの従業員数は2147人。

    2017年06月07日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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