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    「ケンちゃん」シリーズ(男前豆腐店)

    • 個性的な豆腐を世に出し続けている男前豆腐店の(左から)浅田工場長と大上営業本部長、石岡商品開発部長(京都府南丹市で)=長沖真未撮影
      個性的な豆腐を世に出し続けている男前豆腐店の(左から)浅田工場長と大上営業本部長、石岡商品開発部長(京都府南丹市で)=長沖真未撮影

    大豆の甘み引き立てる 

     デビューから7年余りが過ぎてもケンちゃんの勢いが止まらない。味わいにクセがなく、幅広い層に愛されている。名前も味も個性的な豆腐で知られる男前豆腐店は、「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」などに続く看板商品「ケンちゃん」シリーズ のヒットで快進撃している。(井戸田崇志)

    あふれる個性 

     似たような商品が多く、安売りの定番品だった豆腐の常識が2005年、設立直後の会社に覆された。パッケージいっぱいに「男」と記した「OTOKOMAE」や、容器が楕円だえん形の「豆腐屋ジョニー」が売り場でひときわ目を引いた。テレビ番組で繰り返し紹介され、スーパーから「店頭に置かせてほしい」との要請が相次いだ。

     社長の伊藤信吾(49)は「価格競争には際限がない」と確信していた。ただの奇抜な商品で終わらせないため、味にもこだわり抜いた。

     豆腐は豆乳ににがりを加えて作る。固まりやすい性質の大豆を、皮ごと釜で炊く一般的な製法だと、あっさりした味になりやすい。

     これに対して男前豆腐は、固まりにくい大豆を使い、皮を取り除いて炊く。手間もコストもかさむが、大豆の甘みやうま味が引き立つからだ。工場長の浅田早百合(58)らが「気温や湿度により、豆を水に漬ける時間を変える」などの工夫を重ね、納得のいく味に仕上げている。

    食べやすさ新機軸 

     しかし、話題性が薄れるにつれて販売が落ち込んだ。伊藤は「飽きられている。このままではまずい」と危機感を抱いた。消費者から「味が濃すぎる」との声が届いていた。

     そこで、大豆のうま味をしっかり残しつつ、食べやすく飽きのこない新商品の開発に取り組んだ。10年に商品化した「ケンちゃん」シリーズは、従来よりも豆乳の濃度を薄め、様々な料理に合うようにした。

     少しずつ食べたい人が多いことにも配慮し、小さめの豆腐3丁入りのパックにした。パッケージには豆腐料理の作り方を写真付きで掲載。キュウリやワカメをのせ、ゴマドレッシングをかけたものなど、約15種類のレシピを用意した。

     業界では1日の出荷量が1万パックで成功とされる中、「ケンちゃん」シリーズ3商品は、需要の多い夏場には計15万パックに上るという。

    市場拡大が使命 

     男前豆腐店は毎年、4種類程度の新商品を投入している。9月発売の「男前鍋 カレー豆腐」「男前鍋 雷豆腐」には、カレーと唐辛子の風味をそれぞれ加えた。商品開発部長の石岡優一(49)は「意外と鍋や麺つゆに合う」と自信をのぞかせる。

     現在は、5000億~6000億円程度とみられる市場規模の拡大に挑んでいる。総務省の家計調査によると、16年の豆腐への支出額は1世帯あたり5667円と、10年前と比べて約13%下がった。若者の豆腐離れや、割安な自主企画商品(プライベートブランド=PB)の増加などで、販売単価が下落傾向にあるからだ。

     営業本部長の大上雅也(58)は「健康志向の高まりに対応した販促などで、若者が豆腐を食べる機会を増やし、業界を盛り上げたい」と意気込む。常識を覆し続けてきた業界の異端児が、豆腐の復権にも本腰を入れる。(敬称略) 

     

     

    「ケンちゃん」シリーズ 

     第1弾「やさしくとろけるケンちゃん」と「特濃ケンちゃん」が3丁入り、「とろけるケンちゃんPREMIUM」は4丁入り。市販の豆腐は300グラム以上の重さが一般的だが、1丁あたり90~100グラムと、あえて小ぶりにした。日本人に多い名前として「ケンちゃん」と名付けた。発売から約6年半後の2016年に累計販売数量が2億パックを超えた。これを記念して、オリジナルグッズ「男前ピアス」「男前イヤリング」を販売した。

     

    伊藤信吾社長 49

     「ケンちゃん」シリーズのように、付加価値の高い商品を提供するのがメーカーの務めだ。しかし、豆腐業界は低価格化に歯止めがかかっておらず、廃業の話を耳にすることが多い。

     販売単価を上げないと、メーカーは持ちこたえられない。当社は豆腐の相場が3丁100円だった時に、1丁300円の商品を売ったことがある。購入客が価値を認めてくれれば高くても売れる。スーパーの担当者も、低価格のPB商品ばかりの売り場はつまらないと考えているはずだ。

     豆腐は地味な商品だからこそ、売り場で目に留まらないといけない。当社の商品は10歳代から中高年まで、幅広い世代に認知されている。商品開発の手を緩めることなく、豆腐の新たなおいしさを提案し続けていく。

     安すぎず、なおかつ高校生の小遣いでも買える手頃な価格の豆腐を供給し続けるつもりだ。そのために必要な生産体制を維持したい。高級路線には移らず、スーパーでの販売を主戦場とする考えは今後も変えない。

     主に企業などの日本人駐在員向けに、米国や英国、タイ、マレーシアなどにも輸出している。今は赤字だが、いつか海外でも本格的に豆腐を生産・販売したい。 

     

    こんな会社 

     経営難に陥っていた地元の豆腐メーカーの工場や従業員を継承し、2005年に京都府南丹市で設立。ヒット商品「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」は、伊藤信吾社長が別の会社の会社員時代に企画したものを引き継いだ。個性的な商品名と同様、社員にも「ゴンザレス」「マイケル」などのミドルネームを付け、名刺にも記載している。17年3月期の売上高は45億円。

    2017年09月27日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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