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    プロゲーマー 1/60秒の攻防

    格闘、射撃… スゴ技で賞金狙う

     

     ゲームで生計を立てる「プロゲーマー」が脚光を浴びている。海外での興隆の波に乗り、五輪を目指す団体も誕生した。「遊び」のイメージを覆す最新事情を追った。(祝迫博) 

     

    • ゲーマーたちが高度なテクニックを競った「第1回日本eスポーツ選手権大会」(3月13日、東京都江東区で)=林陽一撮影
      ゲーマーたちが高度なテクニックを競った「第1回日本eスポーツ選手権大会」(3月13日、東京都江東区で)=林陽一撮影

     5月28日、東京・秋葉原。スポーツバーを思わせる大会会場は、若者の熱気であふれていた。

     「おおっと、ドロップキックだあ――」

     実況者の声が響く。男性2人が操作する対戦ゲームのキャラクターが、縦2メートル、横3メートルほどの大画面の中で戦っていた。

     

     大技が出るたび、場内を埋めた観戦者約50人がどっとどよめく。白熱するプロレスでも見ているようで、思わず身を乗り出した。

     会場の「eスポーツスクエア」は2014年1月、日本初のゲーム専用の競技・観戦施設として開業し、ゲーム大会が頻繁に行われている。eは「電子」の意味。「eスポーツ」とは、ゲームをスポーツの一種と捉えた名称だ。

     

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     昨年4月、日本初の競技団体「日本eスポーツ協会」が発足した。

     都内で今年3月に開かれた第1回の「日本eスポーツ選手権大会」には全国から350人の選手が参加。1000人以上が会場で観戦したほか、13万人以上がネットで視聴し、ファン層の厚さをうかがわせた。会長の西村康稔衆院議員は「eスポーツを将来は五輪種目に」と意気込む。

     

     それは絵空事ともいえないという。eスポーツの考えは海外で浸透し、すでにアジア・オリンピック評議会(OCA)が正式競技に採用している。協会の当面の目標は、日本オリンピック委員会(JOC)に加盟し、OCAの大会に日本代表を送り込むことだ。

     

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    • 格闘ゲームの研究をするプロゲーマーの井上さん(東京都内で)
      格闘ゲームの研究をするプロゲーマーの井上さん(東京都内で)

     5月下旬、都内にある雑居ビルの一室を訪ねた。

     「かずのこ」の名で活躍するプロゲーマー・井上涼太さん(28)の仕事場だ。スポンサー企業が用意したこの部屋で、井上さんは日夜、格闘ゲームの研究を重ねている。

     左手でレバー、右手で8個のボタンを操作。60分の1秒単位のスピードと精度が求められる世界だ。笑みはない。「楽しくない。でも強くなるため」。1日平均9時間、ひたすら画面を見つめる。

     

     井上さんは1月、ゲーム配信会社と専属契約を結び、プロになった。ゲーム解説などに伴う固定給は月約25万円。同時に、海外大会で高額賞金を狙う。昨冬は北米での大会で優勝し、1500万円を獲得した。今年も7月に、米ラスベガスで大会を控える。

     「プロになり、やっとゲームを続ける罪悪感から解放されました」

     埼玉県出身。高校時代に格闘ゲームにはまり、大学卒業後もフリーターをしながらゲームセンターに通い詰めた。自称「ダメ人間」だった。

     

     6年前、将来を心配する親に一度は「やめる」と誓ったが、直後の国内大会で優勝。次のカナダ大会でも勝ち、海外のライバルから「なぜプロにならない?」と不思議がられた。同じ頃、日本初のプロが誕生したのに触発され、「飛び込もう」と決意した。

     日本eスポーツ協会によると、井上さんのように格闘ゲームだけで生活するプロは現在、国内に10人前後。団体戦形式の別のゲームでもプロチームが発足し、法務省が3月、このチームに所属する海外選手に、プロスポーツ選手らに与えるビザを発給した。「国がゲームをプロスポーツと認めた」と話題になった。

     井上さんは言う。「将来は、Jリーグやプロ野球みたいになるのが理想です」

     

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     だが、理想の実現は、まだ遠い。「子供の遊び」「勉強の妨げ」など負の印象は根強く、日本には高額賞金を規制する法律もある。プロの資格制度もまだ整備されていない。

     そんな漠とした世界だが、今春、プロゲーマー養成などを目指し、都内の専門学校が開講した日本初の「eスポーツ専攻科」には、1万人以上から問い合わせが殺到。学校側は、設備と定員を急きょ5倍に拡大した。

     勃興期にありがちな勢いとも思えるが、今後定着するだろうか。馬場章・東大教授(情報学)は「ゲームは、サッカーなどの身体系とチェスなどの頭脳系の双方の要素を備えた新たな形態のスポーツだ。世界の流れをみると、日本でも徐々に浸透していくだろう」と展望を語った。

     

     

    ◇1億円プレーヤーも

     

     対戦ゲームには、格闘や射撃、サッカーなど複数のジャンルがある。特にキャラクターを操作して、必殺技を繰り出しながら戦う格闘ゲームが、日本で人気が高い。「ストリートファイター」「鉄拳」などのシリーズが有名だ。

     プロ化は、パソコンゲームが主流の欧米や韓国で進んだ。インターネットの整備でネット対戦や観戦が容易になり、若者を中心にファンが増え、企業は有望な市場とみて参入する構図だ。

     欧米では1990年代後半から、賞金付きの大会が各地で開かれ、年々規模が拡大。米国では昨年、賞金総額22億円超の大会が開かれ、年収1億円以上の選手もいる。米国や韓国、スウェーデンなどにはプロリーグもある。

    2016年06月12日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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