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    都市も深刻 買い物弱者

    小規模店閉店、400メートルが遠く

    • スーパーに向かう和子さん(左)。上り坂は体にきつく、何度も立ち止まる(大阪市阿倍野区で)=長沖真未撮影
      スーパーに向かう和子さん(左)。上り坂は体にきつく、何度も立ち止まる(大阪市阿倍野区で)=長沖真未撮影

     食料品の買い物にも苦労する「買い物弱者」の問題は今後、都市部で深刻化するという。高齢化の進展に伴い、都市部で高齢者人口が増えること、大型店の進出に伴って商店街などの小規模店が減り続けていることが背景にある。「フードデザート」(食の砂漠)と呼ばれる現象が広がりつつある。(宮原洋)

     

     大勢の客でにぎわう超高層ビル「あべのハルカス」の地元、大阪市阿倍野区金塚地区。強い日差しが照りつける長い坂道を、和子さん(85)(仮名)が手押し車で体を支えるようにして、ゆっくり上っていく。

     行き先は、自宅から東に約400メートル離れた大手スーパー。ハルカスや大型商業施設「あべのキューズモール」などが並ぶ大通り沿いにある。2年前に腰を圧迫骨折して歩くのが難しくなり、何度も立ち止まるため、片道30分ほどかかる。

     これほど苦労するのは、自宅近くにあり、毎日のように生鮮食料品を買っていた「あべのマルシェ商店街」の地元スーパーが昨年6月に閉店したからだ。遠くまで歩くには介助が必要で、買い物は、近くに住む親戚の女性が付き添ってくれる週2回に減った。一度に買う量が増え、手押し車に入れた食品は重くなり、帰りの下り道は気が抜けない。

     昨秋に夫を亡くし、一人暮らし。「目的がないと外に出る気にもなれない」と、自宅に籠もりきりの日もある。気持ちは沈み、「なんでこんな体になったんやろ」とこぼすことが増えた。

     

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     金塚地区は、大阪市が1976年に始めた再開発事業で、高層集合住宅20棟(計約3100戸)が立ち並ぶ。高齢者も多い。

     事業に伴って整備されたマルシェ商店街はシャッターが目立つ。ここ5年で相次いで開業したキューズモールやハルカスなどに客を奪われた影響もある。和子さんが通った地元スーパーの経営者は「購買量の多いファミリー層が大きく減り、お年寄りだけでは商売が成り立たなくなった」と閉店の理由を説明する。

     地区の見守りボランティアによると、地元スーパーで晩の総菜と翌朝のパン、牛乳を買うのが日課だった80歳代の女性は、閉店の数か月後、自宅で孤立死しているのが見つかった。胃の中は空だったという。

     

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     「帰りの下り坂で転ぶのが怖くて、バナナさえ重たくて買えない」。市の高齢者支援拠点・地域包括支援センターには、こんな声も寄せられている。

     センターは昨年9月以降、地区の町会役員や民生委員らと対策を協議。小売業者などの協力を得て今年5月から月1日、同商店街の一角で食品や日用品の販売会を始めた。

     「なんで盆踊りに来んかったん?」「区民センターで文楽をやるらしいよ」――。8月10日にも販売会があり、訪れたお年寄りが立ち話を楽しんでいた。その姿は、社会との接点を再確認しているようだ。

     小西郁子・阿倍野区北部地域包括支援センター長は「買い物は、健康と命、生きる意欲に直結する。毎日移動販売してくれるような業者が現れるのを期待し、声を上げていきたい」と話す。

     

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     「買い物弱者=過疎地」という図式は、もはや過去のものとなった。農林水産省・農林水産政策研究所の推計では、自宅から生鮮食料品を扱う店まで500メートル以上離れ、車を持たない高齢者は、2025年には598万人へと急増する=図=。東京、大阪、名古屋などの都市部は349万人で、都市部以外の249万人を超える。経済産業省の調査では、ニュータウンや地方都市でも買い物弱者が増えると指摘している。

     同研究所は「店が500メートル以内にあっても、傾斜地や体の不具合、独居で介助者がいないといった要素が加われば、容易に買い物弱者になり得る」と警鐘を鳴らしている。

     

     ◇コンビニと協定、出店許可 各地で支える仕組み

     

     買い物弱者を支える取り組みが各地で始まっている。

     2012年に徳島市の会社が始めた「移動スーパー とくし丸」は、生鮮食料品や日用品をトラックで巡回販売する。今では東京都新宿区や大阪府交野市といった都市部を含め、161台が走る。

     都市再生機構(UR)は7月にコンビニ大手3社と協定を結び、管理する団地の空き店舗への出店を進める。店にない商品の購入代行を取り次ぐ窓口を設けることも検討中だ。

     一方、国は8月3日、全国の自治体に対し、商店の立地が原則禁止される「第1種低層住居専用地域」でも、徒歩圏内に店が不足している地域などでは、一定の条件を満たしたコンビニに出店を許可するよう促す運用指針を出した。

     フードデザートの問題に詳しい茨城キリスト教大の岩間信之教授は「地域のつながりが希薄化した都市部には、自宅に引きこもって栄養状態を悪化させる高齢者が多い。産官学民が協力し、買い物先を増やすだけでなく、孤立したお年寄りを把握して外出を促していく必要がある」と指摘する。

    2016年09月04日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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