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    落ちても上を向いて 断酒21年「出口はある」

    • 「本当に仲が良い友達や男女は、酒がなくても通じ合います」(東京都港区で)=上村真也撮影
      「本当に仲が良い友達や男女は、酒がなくても通じ合います」(東京都港区で)=上村真也撮影

     酒に溺れるアルコール依存症の状況を言葉にするのは難しい。辛口コラムで人気の小田嶋隆さん(60)はそれができる貴重な存在だ。39歳で依存症と診断され、以来21年、断酒している。

     「酒は飲むと必ず寝てしまう方で、会社員時代はそんなに飲みませんでした。朝からちびちび飲み始めたのはライターになり、30歳を過ぎてから。味には関心がなく、銘柄は酔うか酔わないかで、47度のジン。歯磨きが習慣化すると『歯を磨かないで生きていけるか』と考えずに磨くのと同じで、飲酒も習慣になると気がついたら飲んでいる」

     罪悪感はありました? 

     「ありましたよ。友達とケンカしたり、自宅の押し入れに小便したり、その罪悪感がまた飲む理由になる。たまに酒をやめようと数日断酒すると、ひどい気分になり、自殺を考え出す。これじゃどうしようもないから、今日のところは飲もう、と飲む。するとふーっと落ち着くんです」

     だが、ついには幻覚が現れ、心療内科に駆け込む。その医師の言葉が響いた。

     「今、あなたは30代で困った酔っぱらいだけど、40代で酒乱、50代で人格崩壊、60代で脳萎縮、それもうまいこと生き残れた場合ですよと。酒をやめるのは、生活を一から組み直すこと。それは知的な作業で、あなたならできるかもと乗せられて、その気になった」

     小田嶋さんはそれを〈人生の棚卸し〉と位置づけ、意識的に生活を一変させた。

     「一緒に飲み歩いていた連中と縁を切り、酒と結びついていたことは全部やめた。音楽はレゲエからジャズ、野球観戦はサッカーに切り替え、時間が余るとイグアナを飼い出した。4部屋のマンションに住んでいたのに2部屋は入れなくなったような寂しさはありますが、デメリットはほとんど感じない。金はかからず、健康になります」

     ただ、そういう断酒のメリットや回復者の声に触れる機会はほとんどない。

     「依存症から抜け出す出口はあるんです。でもその情報が、ほとんど伝わっていない。依存症に一度なると、社会は『ダメ人間』の烙印らくいんを押し、本人も二度と回復できないと思い込んでしまう。落ちた人間がもう一度浮かび上がれる社会をつくるべきです。落ちない社会ばかりではなく。そのために、私のように立ち直った人間は発信していかなければならない。本も出そうと思っています。タイトルは『上を向いてアルコール』です」

     落ちてもまた上を向けばいい。落ちた人でしか紡げないメッセージは、出口を求め、今もさまよう人の希望のあかりとなるだろう。

                      ◇

    ◇小田嶋隆さん

     東京都出身。会社員などを経てライターとなり、時事問題から芸能、スポーツまで幅広い分野の辛口コラムで人気を博す。近著「ザ、コラム」など著書多数。

     

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    2017年03月14日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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