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    「変わる社会」(1) 深層学習 幼児がお手本

     親が幼児に犬を見せて「これが犬だよ」と教える。すると幼児は犬の特徴をつかみ、後に別の犬を見ても、ほかの動物と区別して「犬」と認識できるようになる。

     幼児が自然と身に付けるこの知的作業を再現するような技術が、今世紀以降に急速に進歩した。「ディープ・ラーニング(深層学習)」と呼ばれる最先端技術だ。この深層学習を導入した画像認識AI「ラベリオ」をネット上で公開している「京セラコミュニケーションシステム天王洲分室」(東京都)のAI推進係責任者、藤田亮(31)は説明する。

     人間なら幼児からできることでも、これまで機械にとっては超高難度の技だった。

     例えば犬と猫を区別する特徴は、耳や鼻、目などの形や色など様々だ。同じ犬でもシバ犬、コリー、チワワで姿は違う。AIは60年以上前に研究が始まったが、深層学習の前は、こうした条件をプログラムにして、人間が教えていた。だが、条件は無限にあり、おのずと限界があった。

     深層学習は、この難題を突破した。人間に教えられるのではなく、AIが「自ら学ぶ」ことができるようになったからだ。

    刺 激 モデルになったのは「脳」だ。脳は、無数の神経細胞がつながってネットワークを作っている。目や耳などから入ってきた様々な情報が電気信号に変換され、細胞同士が信号をリレーのバトンのように受け渡して、情報を処理している。

     細胞のつながりが強ければ信号は伝わりやすくなる。つながり方が強くなるのは、何かを「学んだ」結果だ。学んだ事柄に対して、正確に対応できるようになる。

     藤田は「深層学習は、この仕組みを、数字と数式が延々と続くプログラムで表したもの」と明かす。プログラムは、脳の深くから何段階も続く信号のリレーを表現している。「深層」の名はここからつけられた。

     深層学習を導入したAIは、どうやって自ら学べるようになるのか。このモデルも人間だ。

     赤ちゃんの脳の神経細胞は最初、無秩序につながっている。その後、外からあらゆる刺激を受けながら、つながり方を変えていく。

     深層学習は、例えば入力した犬の写真を「猫」と間違えば、関係するプログラムを自ら修正する。画像を替えて何万回と繰り返すうちに、プログラムをどんどん最適化し、新しい画像も高精度で見分けられるようになる。

    神のみぞ知る ラベリオの識別能力を確かめてみた。ネット上でラベリオに犬、猫、牛、羊の各30枚の写真データを入力。ラベリオが4種類の動物を学んだ後、これらの動物の別の写真を識別した時の正答率は63~100%。動物以外のものがわずかに写っていたり、動物が横たわっていたりすると、正答率は低くなる傾向にあったが、事前により多くの写真を学べば、正答率はもっと上がるという。がんの画像診断でも活用が検討されている。

     藤田によると、ラベリオは画像を数値として認識しているが、実際に画像をどのように学んでいるのか、詳細には、わかっていないという。「AIがどう成長していくかは『神のみぞ知る』だ」と藤田は語る。

     人間が自らを模倣して作った新たな「知能」の深層は、人間にさえとらえられないという。(敬称略)

     ◇知的作業着実に参入

     深層学習など、コンピューターが膨大なデータを分類し、意味ある法則を見つけることは「機械学習」と呼ばれ、AIの中核技術となっている。

     文章の分析技術もその一つだ。感情に訴える文章に加え、定型化された企業決算などの記事ならば、数分間で書けるようになった。作成スピードと本数は人間をしのぐ。人間の聖域と思われていた知的作業にも、AIが着実に参入している。

     深層学習も色々な分野に広がっている。話し言葉で、検索などができる音声認識機能は、ほとんどの機種のスマートフォンに搭載。いずれはAIと対話し、コンピューターを操作する時代が来ると予想されている。画像認識などの技術を活用した車の完全自動運転は、実用化に近づいている。事故時の責任はだれが負うのかなど、制度改正を目指す議論が始まっている。

     「AI×ビッグデータ」第2部のテーマは「変わる社会」。深層学習などの最先端技術を搭載したAIが、人間の社会と生活に起こそうとしている変化に迫る。

    2017年03月31日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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