文字サイズ

    暴力 消えない心の傷

    「DVの環境 子供に虐待と同じ」

     過敏性腸症候群。近畿地方で小学生2人の子と暮らすシングルマザーの北川亜紀さん(41)(仮名)についた診断名だ。6年前の離婚からまもない頃という。

     下痢や便秘を伴う心因性の病気で、亜紀さんの場合、水のような便が意図せず出てしまう。「職場で食べない」で対処したが、調子が悪いとおむつを着けた。今も完治はしていない。

     原因は、離婚するまで続いた夫のDV(ドメスティック・バイオレンス=親密な人間からの身体的、精神的な暴力、暴言など)。

     「離婚後、カウンセリングを受け、抱え込んできたストレスに対処しないといけなかったんですけど、蓋をしてきてしまって」。一手に担う育児、家事、仕事を優先してきた代償だった。

     夫とは友人との飲み会で知り合った。金融関係のサラリーマン。いつも笑顔で話を聞いてくれ、「この人となら幸せになれる」と思い、プロポーズに応じた。

     ところが酒絡みの異常行動が目立つ人だった。飲酒後に就寝中、「殺すぞ」と寝言を言い、壁を殴り、ふすまを蹴る。なのに翌朝、「覚えていない」と言う。

     結婚半年で長男を妊娠した頃から酒癖はひどくなり、モノを投げられた。本、電話、加湿器……。2人目が生まれると、さらにエスカレート。引きずられ、突き飛ばされた。体にアザができ、頭を切った。

     ただ亜紀さんはこう思っていたという。「子供に父親は必要。妻として支えていかないと」

     そんな亜紀さんを一家の状況を知る、ある人の一言が変えた。言葉が遅れていた長男の創太君(10)(同)を定期的に診察してきた病院の児童心理司。大人の顔色をうかがう創太君の様子に「DVの環境に子供を置くことは、虐待しているのと同じなんだよ」と言った。

     「子供を追い込んでいたのは私」と思った亜紀さんは離婚を切り出し、子供2人を連れて家を出た。調停で離婚が成立。夫は最後まで「お前が悪い」と言い続け、月5万円の養育費の支払いは数か月で止まった。

         ◎

     DVを受けた経験は、私にはない。ただ大学時代に一度、同じ大学の男子学生に突然、暴力を振るわれたことがある。全くの誤解なのだが、私に陰口を言われていると勘違いしたその人は研究室にどなり込み、私を椅子から引きずり下ろし、「お前なんてどうにでもなる」と首を絞め上げた。

     周囲が制止し、けがはなかったが、半年ほど1人で外出ができなくなった。今も男性の粗暴な態度やどなり声を見聞きすると体がこわばる。15年以上も前、たった一度の暴力でも、だ。

     心を許した相手から暴力を受け続ける日常は、私には想像すら難しい。

     ただ、その想像を絶する世界から、多くのシングルマザーは逃れてきている。それが現実なのだ。

     

     【伴走メモ】

     DV被害者の自立支援体制の整備などを都道府県に義務づけたDV防止法は2001年に成立、施行された。同法に基づき、各自治体が設置する「配偶者暴力相談支援センター」に寄せられるDVの相談件数は年々増加し、15年度は11万件を突破。内閣府の14年調査で、結婚経験のある女性の約4人に1人が配偶者から暴力を受け、10人に1人は何度も受けていると回答した。

     

     連載への感想や体験談をお寄せください。〒530・8551 読売新聞大阪本社社会部「伴走記」係。ファクスは06・6361・0733、メールはosaka2@yomiuri.com

     

    2017年04月19日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
    リンク