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    「食の都」コメの魅力発信(藤尾益雄 神明社長)

    • 藤尾益雄・神明社長
      藤尾益雄・神明社長

     戦後間もない1950年代、日本人は1人当たり年間約120キロのコメを消費していた。しかし、今はその半分以下にとどまる。

     少子高齢化に加え、パンやパスタなど食生活の欧米化により、コメの消費が減ってきたことが大きい。最近では、炭水化物を減らすダイエット方法も関心を集めており、消費の減少に追い打ちをかけている。

     コメを消費する人が少なくなればなるほど、農家はコメ作りで生計を立てることができなくなる。「先祖代々守ってきた水田だが、このままではもう続けられない」という話をコメ農家から何度も聞いてきた。

     稲作農家の平均年齢は70歳を超えており、農業の担い手不足により、水田を維持できないケースが頻発している。皮肉のようだが、「コメ作りでは飯を食えない」という事態が、現実になりつつある。

     現在、主食用米の自給率は100%だが、今以上にコメの消費が落ち込み、農家の衰退が続けば、早晩、日本人が主食を自前で確保できなくなる時が来る。

     大豆やトウモロコシ、小麦などの穀物類は、現在、ほとんどを輸入に頼っており、野菜や果物、魚ですら自給率は高くない。経済摩擦などで輸出が止められたら、我が国の安全保障にとっても大きな危機である。

     まずは、主食を安定供給するため、国と企業が一緒になって農家を守るべきだろう。

     2007年に社長に就任するまで、事業はほぼコメの卸売りだけだった。このままコメの消費が減っていくと、わが社の将来もないと思い、コメの消費を増やす様々な手を打ってきた。

     まずは、手軽にご飯を食べられるようにパックご飯事業を始めた。改良を重ねて作った無添加のパックご飯は、炊いたご飯と味は変わらないほどになった。次に回転寿司ずし事業に参入した。回転寿司の普及により、お寿司が庶民のものになり、子どもの頃からご飯を食べる習慣をつけるには絶好の機会だと考えた。

    • 「ハーバーランド」 絵・宮本信代
      「ハーバーランド」 絵・宮本信代

     コメの消費底上げの突破口は、関西にこそあると思う。

     「食い倒れの町・大阪」という言葉に象徴されるように、関西の食文化は豊かだ。「カップヌードル」を生み出した日清食品、ウイスキー「山崎」で知られるサントリーホールディングス、国内最大手の回転寿司チェーン・あきんどスシローなど関西に本社を置く食品、外食系企業も多い。こうした集積を生かして、関西を「食の都」として国際ブランド化してはどうだろうか。

     19年のラグビーワールドカップ、20年の東京五輪・パラリンピックを追い風に、関西を訪れる訪日外国人観光客はますます増えていくだろう。訪日客の多くは、日本食、あるいは関西のB級グルメを楽しみにしていると聞く。

     食に関心の高い彼らに、日本のコメが安全安心で、どんな料理にも合う優れた食材であることを積極的に提案しない手はない。

     ブランド化には、関西らしさを前面に出す必要がある。大阪は買い物やエンターテインメントを楽しめる。京都、奈良は歴史を味わうことができ、兵庫には神戸のきれいな町並みや港、世界遺産の姫路城もある。それぞれ特色のある地域に合わせた「食」を提供すれば面白い。

     本物の「味」を知れば、母国に帰っても忘れない。日本食の輸出なども増えていくだろう。

     そうして、IT(情報技術)産業が集積する米国のシリコンバレーのように、関西が「フードバレー」として世界的に認知されれば、日本のコメも、さらにはそれを支える農業も、世界で評価される存在になるに違いない。

     食べ物の商売をやっていて一番うれしいことは、お客さんに「あー、おいしかった」と言ってもらうことだ。市井の人たちを相手にしたビジネスだということを忘れてはならない。私の祖父は必ず市場を通って帰宅していた。魚屋や八百屋と色々な話をすることで、商売の肌感覚を大事にしていた。

     近江商人や大阪商人を輩出してきた関西には「商売人」の精神が根付いている。こうした関西らしさもブランドになるだろう。 

     

    ◇ふじお・みつお 1989年芦屋大教育卒、「あかふじ米」のブランドで知られるコメ卸大手、神明入社。2007年に社長。14年から元気寿司会長も務める。神戸市出身。52歳。

    2018年06月09日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大阪本社社会部から
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