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人工ボディーを究める(1)心のバリア溶かして体の一部がない。それを卑下し、周囲の視線におびえて生きる苦しみを想像してみたことがあるだろうか。そうした人たちが心の輝きを取り戻してくれたら……。彼女の「作品」は切なる思いから生まれる。 6月28日の昼下がり。大阪市北区の「工房アルテ」の主任技師、福島有佳子(40)が、鏡の前に座った友美さん(26)の耳元からそーっと手を離した。友美さんの顔がみるみる明るむ。 「あぁ、耳。私の……」 それは、生まれつき右耳がない友美さんの依頼で、完成したばかりの人工耳。「念願のピアスもOKよ」。鏡に向かい、笑顔で福島は言葉をかけた。 手足、指、目鼻など体のあらゆる部位を、特殊なシリコーンで個人の特徴通りに復元する「人工ボディー」制作――。福島はそのパイオニアかつ第一人者だ。先天的に、あるいは事故や病気で外見に悩みを抱えた人たちが、工房に希望を託し、海外からも訪ねてくる。 友美さんは幼い頃から耳元を見られるのが怖く、長い髪で「ずっと隠して生きてきた」という。夢見たのは、普通の女の子のように「ピアスを着け、顔を上げて街を歩ける日」。そんな彼女のために福島が作った耳の精巧さは息をのむほどだ。 左耳そっくりの微妙につり上がったライン、細かな隆起が見事に再現され、目をこらすとほのかな肌の赤み、毛細血管までうっすら透けて見える。 人の皮膚は実に多様な色で出来ている。忠実に表現するため、福島は肌色だけで2000色超を使い分ける。今回、友美さんに合う12色の油性着色剤を凝固前のシリコーンに混ぜて成形した耳は、色白の地肌にしっとり溶け込んで見え、「血が通っているのでは」と錯覚してしまう。 「工芸高校で彫刻が得意だった程度」という福島が、先例のない人工ボディーに独学で挑み始めたのは21歳の時。以来、数え切れないほどの傷心と向き合い、願いに応えてきた。 がんの放射線治療で顔面の過半を失い、余命わずかと宣告された男性は「親に産んでもらった顔で死にたい」と言った。福島は涙をこらえつつ、目を閉じた状態の顔を復元した。 「幼い息子が近寄ってくれない」。不慮の事故で片手を奪われた父親の嘆きには、こう考えた。幼子が触れられて心地よい手とは、どんな感触か。シリコーンの硬さを工夫し、強度は保ったままで、手のひらだけを柔らかくした製品を作った。ほどなく父親は、息子との以前の日常を取り戻したという。 装着することで、その人の「心のバリアを溶かす」。人工ボディーの役目をそう表現する福島の仕事は、一対一で時間をかけ、依頼者の悩みや思いを聞くことから始まる。 「福島先生、ピアスの位置はもっと上の方がいい?」 目の前では、友美さんがうれしそうに鏡を見つめている。福島は、彼女が初めて工房にやって来た、冬の一日に思いを巡らせていた。(敬称略) (2011年7月29日 読売新聞)
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