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<1>リストラ漂流居場所 まだ世界にある日本で「不要」と言われた。そんな自分を求めてくれる人たちが目の前にいる。 ベトナムの首都ハノイから南に約550キロ離れた地方都市・フエ。市街地を抜け、赤褐色のでこぼこ道を上っていくと、簡素な校舎が見えてくる。そこが、川村泰裕(26)の職場だ。 「皆さん、復唱してください。『明日は、晴れますか』」 川村に続き、約20人のベトナム人学生の日本語が教室に響く。アシタハ、ハレマスカ……。 川村は、国立フエ外国語大の教壇に立つ日本語講師。この地にたどり着いて、9か月がたつ。 ◇ 「辞めてくれないか」 呼び出された会議室。部長から告げられた一言に目の前が真っ暗になった。 2008年に早稲田大を卒業。就職した東京の機械メーカーは直後のリーマンショックでいきなり傾いた。そんな中でも営業ノルマをこなそうと、くたくたになるまで得意先回りを続けてきたつもりだった。 入社1年半でのリストラ。いくら理由をたずねても部長は言葉を濁すだけだった。会議室を出た瞬間、悔しさで体が震えた。 「こっちで働かないか」 ベトナムにいた知人から誘われたのは、その頃だった。全く知らない土地で、いったい何ができるのか。だが、若者が簡単に切り捨てられる国に未来はあるのか――。日本中を覆っていた閉塞感が、迷う背中をぐっと押した。 ところが、ベトナムで知ったのは、日本の別の顔だった。最初に頼まれたのは、現地の大学生たちに3か月間、日本語を教えるボランティア。20歳前後の学生たちは、川村のもとに駆け寄っては、「日本が大好き。勉強して、いつか日本の会社で働きたい」と言った。 ベトナムから見れば、1人当たりの国内総生産(GDP)は30倍以上。蛇口をひねれば飲める水道水を整備したのも、国際協力機構(JICA)と横浜市水道局だと現地の人から聞かされた。日本は沈みゆく船なんだ。そう悟ったつもりなのに、ここでは尊敬と羨望で仰ぎ見られる国だった。 日本語を学びたい。でも、教えてくれる日本人がほとんどいない。学生たちの真っすぐな目に、心動かされる自分がいた。しばらく後、川村のことを伝え聞いた外国語大の責任者に頼まれた。「正式に講師として働いてくれないか。あなたの力を貸してほしい」 住まいは大学の学生寮。日本語の観光ガイド育成の仕事などと合わせても、月2万円ほど。それでも現地の物価なら十分、生活できる。日本は雨でも、晴れている場所はどこかにある。 日々の出来事をブログでつづる。それを見て「何十社受けても内定がもらえない……」と、思い詰めた顔で日本からわざわざ訪ねてきた学生もいた。だから、雇用不安におびえる同世代に、こんなメッセージを送る。 「世界には、日本人だからこそ働ける場所がまだまだある」 ◇ 街中に車のクラクションが鳴り響く。タイ・バンコク中心部にある日系自動車部品メーカーのオフィス。30人のタイ人に交じって、吉澤雅子(37)が働くようになったのは昨年3月だった。仕事に疲れた時、ふと頭をよぎるのは、日本での惨めな日々――。 「年齢的にも最後のチャンス」。そう思って08年3月に転職した外資系自動車メーカーが、いきなり経営不振となり、わずか10か月でリストラされた。 専業主婦だったが20歳代で離婚。女1人でどうやって食べていくか考えてきた。派遣の仕事でためた金で英会話学校に通い、転職を重ね、やっと入った会社だった。 失業生活は半年以上続いた。外出も控え一日中、転職サイトの情報や新聞の求人欄を食い入るように見た。応募した会社は100社以上。だが、面接の連絡さえ来なかった。 「女性、年齢、転職回数の多さ。不利な条件がそろっています」。転職コンサルタントの言葉が、「あなたは日本では規格外」と宣告されたように聞こえた。 失業給付の打ち切りが迫った頃、「現地採用」という働き方が広がっているのをネットで知った。海外の日系企業が、経費削減のため、駐在型から現地採用に切り替える動きが進んでいた。 応募するとすぐ、タイの日系メーカーから声がかかった。「日本にはもう、私のいすは残っていない」。未練を断ち切った。 それから10か月。吉澤は今、タイ人の部下4人を束ね、生産ラインの部品調達を取り仕切る。部下を持つのも、現地の業者らとシビアな価格交渉をするのも生まれて初めて。収入は半分に減ったが、味わったことのない充実感だ。 「日本では二度とスタートラインに立てなかった。でもここにはチャンスがある」(敬称略) (2011年1月3日 読売新聞)
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