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ドラッグ・ラグにおびえ「薬断たれれば命絶たれる」肺がん治療薬「イレッサ」の副作用を巡る訴訟で、国が東京、大阪両地裁の和解勧告を拒否した1月28日、厚生労働省幹部は報道陣に力説した。 「これで法的な責任が問われれば、すべての点が明らかにならないと薬の販売ができない。医療現場への影響は大きい」 幹部が懸念したのは、国外医薬品の承認が遅滞する「ドラッグ・ラグ」。日本製薬工業協会(東京)によると、国外医薬品を承認するまでの平均期間は米国1・2年に対し、日本は4・7年。審査態勢の違いなどが背景に挙げられるが、その拡大を懸念する声は患者側に少なくない。 □ □ ドラッグ・ラグの象徴とされるのが「サリドマイド」だ。つわり止めの薬として服用した女性の子供に障害が続発し、いったん販売が中止されたが、1999年に多発性骨髄腫への効果が指摘され、2000年代前半から海外で妊婦の服用を制限した上での再承認が相次ぐ。日本での再承認は08年だった。 日本骨髄腫患者の会(約3500人)副代表、上甲恭子さん(42)(堺市)の父親は99年に多発性骨髄腫と診断され、医師から「平均生存期間3年」と告げられた。教員を定年退職し、第二の人生が始まったばかり。「少しでも長く生きたい」とサリドマイドにかけた。 未承認薬を扱う病院は限られ、山梨県まで通った。もちろん健康保険も適用されない。しかし、副作用を感じることなく背中の激痛が収まり、余命告知から6年以上、生きられた。 イレッサ訴訟の和解勧告後、上甲さんは会のホームページで「ハイリスクな薬を二度と承認できなくなるのではないか」と不安を吐露した。 そして、言う。 「経済的理由などでサリドマイドを断念し、再承認までに亡くなった患者だけでも数百人。緊急性の高い患者にとってドラッグ・ラグで薬を断たれるのは命を絶たれることなのです」 □ □ イレッサもサリドマイド同様、流通が止まるかも知れない時期があった。 04年末、海外で延命効果への疑問が示され、承認取り消しが検討されたのだ。これに服用中の肺がん患者5人が05年2月、「人間としての生活を続けるために必要」と厚労省に訴えた。検討会での審議を経て、結局、承認は継続された。 大阪府寝屋川市の女性(67)は7年近くイレッサを服用している。承認取り消しが取りざたされた際、不安に駆られた一人だ。 以前の抗がん剤治療は副作用の吐き気がひどかったが、イレッサは口の周りに軽い発疹が出たぐらい。腫瘍マーカーの数値は服用直前の109が、2か月後に2を下回った。今では趣味のフラダンスを楽しむ毎日だ。 「承認が取り消されていたらどうなっていたか」。イレッサに救われたと感じているだけに訴訟を見守る思いは複雑という。 「すがるように新薬を飲んでいる人がいる。副作用の重大さは分かっているが、効き目にも目配りした、バランスの取れた結論を」 女性の切なる願いだ。 (2011年2月23日 読売新聞)
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