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京都・「メサイア」初演地聖なる難曲 手探りで挑んだ学舎から歌声が聞こえてきた。敬虔なソプラノの響きに背筋を伸ばして聞き入る。 ◆学生の熱演 60回の歴史紡ぐ Hallelujah Hallelujah for the Lord God omnipotent reigneth―― 年の瀬、あちらこちらで耳にするハレルヤコーラスは、ヘンデル作曲「メサイア」第2部の掉尾を飾る曲だ。全3部は53曲から成り、通しで演奏すると3時間に及ぶ。和音の精度、音の跳躍など、合唱にもオーケストラにも高度な技術が求められる。 国内初の通し演奏に挑んだのは京都の同志社だ。1935年、創立60周年の記念演奏会で取り上げた。以来七十余年、幾千人もの学生が「メサイア演奏会」の歴史を紡いできた。クリスマスイブに開く第60回の本番に向けて今出川のキャンパスではひたむきな練習が続く。 初演の会場になった栄光館(32年完成)を訪ねた。八角形の塔屋と赤レンガの外観が美しい。国の登録文化財だ。今も日々礼拝に使われている。天井からシャンデリア様に電灯がつり下がり、1500を超える木製の椅子が陽光に黒光りしている。パイプオルガンが据えられ、演台には分厚い聖書。威容、という言葉が頭をかすめる。 「立すいの余地がない盛況ぶり。混声合唱の迫力に圧倒された。僕の青春を、合唱にささげようと思いました」 当時中学生で、後にグリークラブの一員として舞台に立った前窪一雄さん(91)は、客席で聴いた記憶をそう語る。 実は私も10年前の第50回、トロンボーン奏者として出演し、感激に震えた。旅の行き先に京都を選んだのは演奏会がどんな風に生まれたか、ずっと気になっていたからだ。 何人ものOBらが「原動力」と語った人がいた。神学部講師だった森本芳雄さんだ。 東京音楽学校(現・東京芸術大)に入りながら、牧師を目指して同志社で学び直し、グリークラブや混声合唱団を指導していた。容姿端麗。米国留学も経験し、レコード店で学生と気さくに新譜を論じ合った。練習では相好が変わった。不出来な学生を指さしては厳しく一人で歌わせた。 演奏会の曲目選定で「建学の精神であるキリスト教主義を表し、誰も挑戦したことのない曲を」と、あえて難曲を推したのは森本さんだった。 数々の逸話が語り継がれていた。いわく「楽器別の楽譜がなく森本先生が全パートを不眠不休で写譜した」「何人もの卒業生に頼み込み、合唱者をかき集めた」「少人数で美しい音色を奏でるため編成を考えに考え抜いた」 「情熱の塊」とも評された指導に、出演者は見事に応えたのだろう。NHKラジオが全国に生中継した演奏会は大成功で、万雷の拍手に包まれたという。 その後の演奏会の軌跡は、キリストの誕生から受難、復活を歌う「メサイア」に、どこか重なる。英語が禁じられた戦時下の第2回(40年)、森本さんが懸命に歌詞を日本語訳し、中止だけは免れた。だが、戦局は厳しさを増し、戦地へ、軍需工場へと、仲間は散り散りになった。 第3回(46年)、日々の食事にも事欠く戦後の混乱期、希望を求め、また学生たちが集った。「身も心もぼろぼろだっただけに感動して」泣きながら歌うメンバーもいた。 森本さんは51年の演奏会を前に病で急逝し、人材難もあって、57〜64年は中断を余儀なくされる。それでも復活したのは、「普遍的な慈しみの情に満ちあふれた曲。年の締めくくりに、どうしても聴きたいと思う人がいたからでしょう」。オルガン奏者として31回も出演した鴛淵紹子さん(81)は推し量る。 演奏会の最後、恒例のキャンドルサービスが行われる。電力不足で演奏中に停電した第6回(48年)、合唱団の一人がライターをともし、クリスマスにちなんで「きよしこの夜」をハミングしたのが由来だ。その時、歌声はさざ波のように広がり、栄光館いっぱいに響いたそうだ。 困難だった時を決して忘れまい。そしてこれからも――。今年の聖夜もまた、舞台の上で、一人ひとりが揺らめく光に伝統を思うのだろう。(淵上えり子) <見る> 京都市営地下鉄烏丸線の今出川駅からすぐ。英学校として1875年に創設された同志社内には、クラーク記念館、ハリス理化学館など重要文化財指定の建造物が五つもある。急勾配の切り妻屋根が特徴の礼拝堂は1886年完工。正面中央の円形のバラ窓や、両脇の木枠組みのステンドグラスなど優れた意匠が見て取れる。室内に差し込む光の美しさを、徳富蘆花は小説「黒い眼と茶色の目」で「五色の光線」と表現した。 ◆茶道と深い関わり <知る> 裏千家の茶室「今日庵」があり、今出川は茶道との関わりが深い地だ。千利休の依頼で作られ、450年の歴史を誇る樂焼もその一つ。ろくろを使用せずに手とへらで成形する「手捏ね」が特徴で、鉄釉を用いる黒樂、赤土を焼成する赤樂が作られてきた。窯元・樂家に隣接した樂美術館(075・414・0304)は1978年の創設で、歴代当主の作品や古文書を展示している。月曜休館。入場料は展覧会ごとに異なる。 ◆四季折々目にも楽しく◎俵屋吉富の京菓子 <食べる> 創業1745年の老舗は、厳選した素材で目に楽しい和菓子を丹精込めて手作りしている。烏丸店(075・432・3101)には、伝統を紹介する京菓子資料館を併設する。代表作は本社からほど近い相国寺の宝物に着想を得た「雲龍」。小豆のふくよかな甘みを引き出し、天に昇る龍を渦巻きで表現した。 季節ごとの創作菓子にも力を入れている。今はクリスマスを題材にした「ジングルベル」=写真=を販売中。雪だるまやツリーの形の砂糖菓子にメロンリキュールやキルシュ、コアントローなどを詰め込んだリキュールボンボンだ。口に含むと果物の風味が広がる。 1箱15個入り(945円)で贈答用に買い求める人が多いという。 (2011年12月7日 読売新聞)
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