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「ケニー・ドーハムに志す」 〜 ラウンド・アバウト・ミッドナイト

 オリジナル・ジャズ・メッセンジャーズのメンバーのうち、ドラムのアート・ブレイキー、ピアノのホレス・シルヴァー、テナー サックスのハンク・モブレーと聴いてきたので、今回はもう一人のリーダー級の大物、トランペットのケニー・ドーハムを聴いてみた。

 ケニー・ドーハムと言えば『静かなるケニー(QUIET KENNY)』(1959年)が代表作なのだそうだ。ピアノにトミー・フラナガン、ベースにポール・チェンバース、ドラムにアート・テイラーを配したワンホーン カルテット作品で、ジャズの名盤と言えば必ず名前が挙がる1枚らしい。

 とはいえ、ケニー・ドーハムが一般的に有名な人物とは思えない。ジャズ・リスナーでもなければ、一生この名前を知らぬままの人の方が圧倒的に多いだろうと思う。だが、いくつかレビューを見てみると、「ジャズ入門者に最適」「初めてジャズを聴く人におすすめ」などと書いている人が結構いる。そこで、タイトルやジャケットからするとかなり渋いイメージだが、本当に入門者向きなのだろうか? という疑問から今回はスタートする。

 1曲目の「蓮の華(Lotus Blossom)」が有名らしいが、聴き始めてしばらくは、「はたして入門者向けか?」という疑問符がまだ頭の中を漂っていた。しかし、50秒あたりでドーハムのソロが始まる頃には引き込まれはじめ、2分30秒あたりからのピアノ・ソロ、さらに3分30秒あたりからのドラムソロとの掛け合いには思わず聴き入ってしまい、気づけば1曲目だけを5回もリピートして(しかも5回目には足を踏み鳴らして)聴いていた。実にいい曲、いい演奏だ。

 2曲目以降も哀愁をたたえたいぶし銀のナンバーが並ぶ。今作でのドーハムのトランペットの音色に派手さや華やかさは感じない。どちらかといえば地味である。ジャケットやタイトルから受けたイメージはあながち間違いではなかった。だが、確かに聴きやすくわかりやすい。

 最後の8曲目「マック・ザ・ナイフ」の軽快さには、思わず頬がゆるむ。聴き終わったあとの心持ちがすこぶる良いのは、この曲のおかげだろうと思う。同曲がソニー・ロリンズの名盤『サキソフォン・コロッサス』では「モリタート」というタイトルで演奏されていたことを思い出し、久々に聴き比べてみたら、ロリンズの方がさらに軽快だった。

 ちなみに、ロリンズの方でもピアノを弾いているのはトミー・フラナガン。どちらも甲乙付けがたいが、最初の1枚なら『サキソフォン・コロッサス』が順当かもしれない。『静かなるケニー』はその次の1枚におすすめだ。

1500番台の2枚

 そう言えば先日、ハンク・モブレーの回で触れたブルーノートの輸入盤セールでCDをまとめ買いした際に、ドーハムのCDも2枚選んでいた。前回、熊村さんがブルーノートに関して非常にナイスなフォローを入れてくださった記事で「ブルーノートの1500番台」のことを知り、気になって見てみると、2枚とも1500番台であった。なんとなく得した気分である。その2枚とは『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』と『アフロ・キューバン』。

 『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』(1956年)はジャズ・メッセンジャーズを抜けた直後のドーハムが短期間だけ率いていた“ジャズ・プロフェッツ”というグループによるライブ・アルバムで、国内盤はVol.1とVol.2に分けて発売されているが、輸入盤だと2枚組である。

 これまたいかにも渋そうなジャケットなうえ、収録時間は2枚で約120分ある。初心者が手に取りやすいアルバムとは思えないが、思い切って約2時間ぶっ通しで聴いてみた。

 案の定、渋い。『静かなるケニー』に比べれば、アップテンポの曲もあるし、トランペットとテナー サックスの2管+リズム隊+ギターというセクステット編成なのだが、『静かなるケニー』に輪をかけた渋さである。熱さを内に秘めて黙々と演奏が進んでいくという印象だ。

 と、書いてしまうと敬遠されそうだが、わかりにくいとか、とっつきづらいとか、そういう意味ではない。この無駄のない職人的な渋さが実にいいのである。特に、1枚目を聴き終えたあとの2枚目2曲目「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」には思わず聴き入ってしまった。

 この「1枚目を聴き終えたあと」というところがポイントで、「では試しに2枚目の2曲目だけ聴いてみよう」という聴き方では、魅力が半減するような気がする。このドーハムの渋い世界に小一時間なじんでから聴いてこそ味わえる何かがあるように思うのだが、いかがだろうか。

 不思議なもので、音楽は「好き」と思って聴くと魅力が倍増して感じられるものである。この「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」に魅せられたあとは、その渋さがクセになり、2枚目を聴き終えたあと、もう一度1枚目から聴き直してしまった。聴き始めたのが夜の12時頃だったので、2回通して聴き終えたのは朝方の4時過ぎ、まさにラウンド・アバウト・ミッドナイトだ。

 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は、以前聴いたマイルスの同名のアルバムでも有名なセロニアス・モンク作の曲。これも聴き比べてみたが、色気があるのはマイルスの方である。だがドーハムの飾り気のない歌心も素晴らしい。入門者はやはりマイルスから先に聴いたほうがいいのだろうと思うが、『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』もその次にぜひ聴いて欲しい。

 もう1枚の『アフロ・キューバン』については、次回ご紹介させていただくのでしばしお待ちを。

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2012年2月17日  読売新聞)
プロフィール
門澤 英夫  (かどさわ・ひでお)
ローソンHMVエンタテイメント LAWSON HOT STATION本部 音楽・映像EC事業部
1969年、宮城県生まれ。1994年、HMV仙台VIVREにアルバイトとして入店。以降、ロック&ポップス担当〜店長として仙台、東京、横浜の店舗に計12年勤務。その後、本社商品部に3年勤務し、現在はHMV ONLINEの洋楽担当課長。


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(2012年5月22日)[全文へ]

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